それはまるで、おとぎ話のように
泡になって消えるなんて馬鹿げてる。 消えてしまうくらいなら私は…
「…姫、姫っ!」 「ぁ、う…はい」
ぼんやりしていた頭に響く錫也の声。慌てて声をあげれば小さくため息をつかれた。ため息をつきたいのはこっちだ。
「勉強、姫が教えてくれって言ったんだろ?」 「そうでした…」
目の前に広げられた参考書と教科書、ペンを握ったままほぼ白紙のノートを前にして、私は頭を抱えた。 やはり錫也に勉強を教えて貰うなんて無謀な話だったのだ。集中がまるで出来ない。
「ごめん、やっぱ今度にする。今日は帰るね」 「…っ、おい」
バサバサと机の上のモノを片付ける手を錫也に掴まれる。咄嗟に、嫌な予感がした。
「…この前の、まだ気にしてるの?」
思い空気の中開く錫也の口。この間のこと…気にしていない訳じゃないけれど、錫也の口からそれを聞いたことが更にショックを増幅させた。
「まさか、もう気にしてないよ。じゃあね!」 「姫っ!」
これ以上この場に居たら何もかもが露になってしまう。制止する錫也の手を振りほどいて、私は自習室を出た。
この前のこと、端的に言えば錫也に振られた。 振られたというと少々語弊があるかもしれない。正しくは振られる事がわかっていたのに告白したのだ。 錫也は月子ちゃんの想いを受け入れて、二人は幼馴染みの関係から卒業した。 私はそれに気持ちがついていかなくて、叶わない思いと分かりながらも錫也に想いを告げ、惨敗。
「人魚姫なら、黙って見守ったのかな…」
大人しく泡になって消えていったんだろうか。でもそれってなんだか虚しすぎる。想いが届かなくても、私の精一杯は伝えたい…そう思ってしまった私は、泡にすらなれないままこうして錫也と曖昧な関係を続けていた。 もう引くことも許されず、ただただ自分の胸をザクザクと切り進む日々。
「はぁ…」
持ち出した勉強道具を腕に抱いて大きくため息をつく。すると、後ろから声がかかった。
「ぬ…、姫?どーしたんだ?」
翼くんだった。 手にはいつものように発明品を従えていて、私のすぐ傍までかけてくる。
「ん…なんでもないよ」 「背中から元気ないオーラが出てたぞ!大丈夫なのか?」
そんなに落ち込んでるように見えたんだ… 曖昧に笑いながら、これ以上この話を引きずりたくなくて、私は咄嗟に話題を変えた。
「そ、その手のは新しい発明品?」 「ん…うぬっ!さっきできたばっかりなのだ!」
うまく話を変えられたみたいで、翼くんは発明品の説明を始めた。ボタンを押すと動くだの、会長や青空くんには秘密だの、身ぶり手振りをしながら話してくれる。
「翼くん、凄いね。たくさん失敗してもめげずに発明品を作って…」 「ぬ〜、諦めたら努力が水の泡になるだろ?積み重ねてきたものが泡になって消えてしまうくらいなら、それを無駄にしないように次に活かしたい…俺はそう思いながら発明を続けてるぞ!」
言われてハッとした。 対象は違えど、翼くんも泡にはなりたくないんだ。 本人はそんなつもりで言ったのではないだろうけれど、翼くんの放った一言で私の中のもやもやが段々と薄れていく。
錫也に想いを告げたことを、私はずっとどこかで後悔していた。 言わなければ、気まずい関係ならずに済んだのにって。 でも、言わなければきっともっと苦しかったのだと思う。 傍で二人の間が深まるのを見守るのはあまりにも辛い。
「…翼くん、ありがとう。元気出た」 「俺はなにもしてないぞ?でも、姫が元気になったのなら良かったのだ!」
ぬはは〜と笑う翼くんにつられて私も思わず口元に笑みを浮かべてしまう。 先程までの泡にすらなれなかった私は、もう居ない。
それはまるで、おとぎ話のように
(ハッピーエンドじゃなかったけど) (明日へ積み上げていく大切な糧)
------------------------------------------ 小夜たんお誕生日おめでとうございます☆☆ 錫也と翼が大好きっていってたから、どう絡めようかと悩んでたらギリギリに;ω; いつも構ってくれてありがとうヾ((。・ω・))ノ 大好きです…♪
20120525
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