桜ロック
雨の匂いが漂う並木道。 イヤホンから流れてきたのは、懐かしい曲。 シャッフル機能がなければ、恐らく自分からは選択しないであろうその曲は、貴方との想い出を彷彿させた。
ねぇ…今どこにいるの? 逢いたい、なんて言ったら、貴方はバカですねってちょっと困った顔をするのかな?
桜は別れを思い起こさせる。 それはきっと入学式に咲く桜より、終業式だったり卒業式に咲く満開とは言いがたい桜を連想 してしまう自分がいるからだろう。 でも、彼に出逢ったのは満開の桜の下、複雑な顔をして空を眺める姿だった。 なにを話したかはよく覚えていないけれど、私が恋をするのにはそう時間はかからなかった。 彼、青空颯斗は、私の知り得る知人の誰よりも聡明で、そして心に闇を抱える人間だった。
「雨は好きじゃない?」 「どうしてですか?」 「髪の毛大変にならないのかなぁって」
ある雨の日、わざと傘を忘れて入れてもらったときに、そう尋ねたらびっくりされた。そんな風に聞かれたのは初めてです、って、ちょっとはにかんだ顔は今でも忘れられない。
あの頃は確かに笑いあっていたのに、私達を遠ざけたものはなんだったんだろう。 いくら思い起こしても、私にとっては素敵な想い出ばかりで、悲しくて背けたくなるのは別れの瞬間。 風に掻き消されそうになったさよならは、何故か私の耳にはっきりと聞こえて、聞こえていない振りをする前に表情に出てしまった。
「私、なにかした?」
尋ねる声は震えていて、彼の顔を見られなくて。いいえ、と小さく否定する声も、そう呟いた彼の顔も直視できなかった。 思い返せば、彼は弱い人間だったのに、私はそれを感じとることが出来なかったのだ。 それが、終わりの原因。
あれから幾度も季節は巡ったけれど、出逢った春を思い出すこの曲は、未だにあの酸っぱい想い出を掘り起こしてきていけない。 あの後、彼はどうしたんだっけ? もう聞くことのない噂話。 さよならをしたあの日から止まったままの二人の時間。
イヤホンから流れる音楽にのせて、小さく歌詞をなぞれば、じんわりと涙が浮かんだ。 青空颯斗以外の人間を好きになることはない、誰よりも本人に伝えたかったのに、伝える前に別れを告げられてしまった。 嫌われたから別れたのではなかったのだと思う。 嫌われていたなら、さよならの言葉はあんなに悲しそうではなかった筈だから。
「……………」
降りしきる雨の中で、あの日を思い出しながら、未だ断ち切れない貴方への想いが向かう先を探す日々。 次…なんてもうないのかもしれないけれど、もしまた逢えたなら…私は貴方へきちんと伝えたい。
桜ロック
(諦めるんじゃなくて整理するんだ) (無くすんじゃなくてしまうんだ) (貴方に逢えたときに引き出せるように) (想いに鍵をかけて思い出に)
---------------------------------------- 由貴しゃんハピバ夢だった…。 曲のチョイスが非恋過ぎて、これは誕生日に向くのか?と思いながら書いたけど、サプライズにせずに普通に聞いた方が良かったかも…泣 改めてお誕生日おめでとうございます☆☆ いつも仲良くしてくれる由貴しゃんに、ありがとうの気持ちです♪
20120623
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