ヤンデレ王子とダメ女 side錫也







俺の奥さんは放っておけない危なさがあって、『過保護』と称される俺は、ついつい手をやいてしまうんだ…






目覚ましのアラームが部屋に鳴り響く音で目を覚ませば、腕の中に気持ち良さそうに眠る姫が居た。アラーム音、結構大きかったはずなんだけど、全く効果がないみたいで、仕事疲れがあるのだろうかと少し心配になる。

「無理しなくていいのに…」

姫の髪に指を絡ませながら、熟睡する姫の顔を覗けば、気を緩めたような安心しきった表情。きっと激務に耐えながら一日を過ごしているに違いない。
疲れた姫を見ていられなくて、何度か仕事を辞めて専業主婦になるように勧めてみたけど、姫は頑なに断った。

「…いけない、ご飯の用意しないとな」

姫を見つめている間にも時計の針は休まず動いていて、俺は慌ててベッドを抜け出した。今日の朝は姫の好きなベーコンエッグにしよう、なんて献立をたてながら。




「姫、朝御飯出来たぞ。起きないと仕事、遅刻するんじゃないか?」

朝食の準備を終えた俺は、未だベッドに眠る姫を起こしにいった。このまま起こさずに俺だけ出勤するのもありだな…とも思ったけれど、ご飯が無くなるのは困るのだそうで、金銭面の心配をしているのかもしれないなと思うと起こさないわけにはいかない。

「ん〜…起きる…」

怠そうにゆっくりと身体を起こす姫。いっそ子供でも作ってしまえば姫は家でゆっくりしていられるんじゃないか、と連日励んでみたけど成果は見えない。かえってそれが姫の負担になっている気もするけれど、俺にしてやれるのはそれくらいしかなくて…

「起きたなら朝御飯、食べるだろ?」
「…食べる。ベーコンエッグ食べたい」
「はいはい」

着替え始めた姫を確認して、キッチンに戻った。




「なぁ、仕事…辞めても良いんだぞ?」

朝食を終えて、俺より先に家を出る姫に弁当を渡しながら一言。今日もきっと断られてしまうのだろうけど、伝えずにはいられない。

「うーん…」

少し困ったように唸る姫。朝からこの話をしたのは失敗だったかもしれない。と思っていたけれど、予想外の答えが返ってきた。

「錫也の居ないおうちに一人で居るの嫌だから、お仕事頑張るよ」
「姫…」

なんて可愛いやつなんだろう。朝じゃなかったら押し倒してしまいたいくらいだけど、抱きしめるに留める。確かに仕事を辞めれば家に一人。星月学園に居た頃から常に周りに人が居た姫にとっては、日中の激務より家に一人でいることの方がずっと辛かったらしい。手頃な話し相手でも見つかれば、姫の寂しさを拭ってやれるのだろうか。今度月子に打診してみよう。

「じゃあ、行ってくるね。晩御飯はハンバーグが食べたいな〜」

遅刻しちゃう、と呟きながら姫は慌てて靴を履いた。帰りに買い物して帰る旨を伝えながら、ブラウスの襟が内側に入っているのを直してやる。こういうところ、星月学園の制服を着ていた頃と変わらなくて、あの頃から手をやいていたなってついつい思い出してしまった。







夕方、定時に仕事を終わらせてスーパーに夕食の材料を買いに来た。週末には二人で訪れる地元のスーパー。もう店員にも顔を覚えられているみたいで、精肉コーナーを見ていたら声を掛けられた。

「あれ、錫也さん…今日は一人なの?」
「こんばんは。仕事帰りなんで一人ですよ。俺の方がスーパーの通り道なんで、買って帰ってるんです」
「晩御飯の買い物なんて…姫さんが羨ましいわ」

うちなんて全然主人が手伝ってくれなくて…と店員がぼやくのを、うんうんと頷いて聞きながら挽き肉を選ぶ。暫くすると店員は、週末は二人で顔を店に来てね、なんて笑顔で言い残して忙しくなったレジの方に消えていってしまった。
近所の人間と親しく会話するようになったのは間違いなく姫の影響で、どんな相手でも分け隔てなく接することができるのは姫の魅力のひとつだと思う。姫が居なかったら、きっと足を止めてスーパーに長居なんてしないから。






「ただいまー」

玄関を開けると、姫の靴が脱いであった。今日は残業にはならなかったみたいでホッとする。
リビングに入ると、朝、家を出たままの姿で姫がソファで眠っていた。ソファの横には鞄から少しはみ出た書類。多分明日までに手を加えなければいけないであろう企画書かなにか。

「お疲れ様、お腹すいてるだろうけど…ちょっと我慢してくれよな」

傍らにあったブランケットをかけてやりながら、返事を返すわけがない姫にそっと囁いた。
キッチンに向かい夕食の準備に取り掛かる。仕事に関してはさすがに俺も手を出せないから、せめて少し休んだ姫が腹を満たし、早くゆっくりと休める環境を整えてやることが俺にしてやれる唯一の手助け。夕食の後、すぐに風呂に入れるように、調理の合間を縫って風呂掃除をして湯を入れる。

「…シャンプー、もうないな」

代え置きがあるかチェックして週末買いにいけばいいか…と、浴室から出るときに考えながら、キッチンに戻り夕食の準備に戻った。



調理が大方終わった頃、ハンバーグを煮込んでいる間に姫の様子を伺いにリビングのソファに向かうと、なにやら姫が眉間にシワを寄せながら眠っていた。

「姫、大丈夫か?」

あまりよくない夢を見ているのだろうか。覚醒を他人に誘発されられると、寝覚めがあまりよくないらしいのだが、心配になって身体を僅かに揺らせば、姫の目がゆっくりと開かれた。

「ん…、すずや?」
「うなされてたぞ、大丈夫?」

ぼんやりと焦点の合わない目。姫の額についた髪をはらっていたら、それがやがてはっきりとしてきた。俺が帰ってきていることに驚いたようで、びっくりしたみたいだ。
姫からおかえりが聞ける頃には意識もはっきりしていて、晩御飯を食べるように誘えば頷いてもらえた。





ご飯をよそって食卓に料理を並べる。起き抜けから姫の顔がなんとなく暗いのは分かっていたけど、それが空腹によるものではないとわかって、あれこれ考えてみるがしっくりくる答えが出ない。
ハンバーグを煮込んだのがいけなかったのかと問い掛けても、姫は否定するばかりでそのまま会話もなく、箸を動かす時に起こる食器の音だけが時折部屋に響いた。

「ねぇ、錫也」

その空気を切ったのは姫だった。

「ん?」
「錫也は、その…家事したりするの嫌にならない?」

小さな声でそう尋ねる姫。
一瞬何の事かわからなくて尋ねた姫をみれば、姫は言葉を続けた。

「だって…お仕事して家事してって大変だよ?本当は私がしなきゃいけないのに…」

待っていた答えが予想外なもので、拍子抜けしてしまった。そんなことで気を落としてしまうなんて、姫は本当に優しいやつなんだな…と関心してしまった。

「家事をするのは嫌じゃないよ。姫だって働いてるし、手の空いてる方が家事をするのは当たり前だろ?」

俺は公務員だし、基本的には定時に上がれて残業もない。だけど姫は、持ち帰りの仕事もあったりして俺よりも勤務状況は厳しいと、姫との話の中で感じ取った。姫は嫌だとは言わないけれど、それはきっと責任感からくるもので、学生時代のあれこれ必死に打ち込む姿を思い出させる。
だからきっと俺は姫を甘やかしてしまうんだと思う。俺たちにとっての学生時代は、俺たちの原点だから。それが変わらずにあることに安心してしまうのだと。


「姫はただ俺の傍でご飯を美味しそうに食べて、幸せそうに笑ってくれればそれでいいよ。さ、姫の悩みが無くなったなら、ご飯の続きにしよう」

結婚を決めたとき、周りからは散々反対された。俺がそばで甘やかしていたら、姫がどんどんダメなやつになるって。でも、誰かに頼れるのは悪いことではないし、姫にとってそれが俺なのはすごく嬉しい。姫はすぐに頑張りすぎてしまうから、甘やかすくらいでちょうどいいんだ。

「錫也、ハンバーグ凄く美味しいっ!」

姫の幸せそうな顔を見ながら、でもやっぱり家で俺だけの姫でいて欲しいなと思ってしまうのは、周りからよく言われる独占欲の表れなんだろうか。






ヤンデレ王子とダメ女 side錫也

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リクエストされたので錫也sideを書いてみました。
錫也ンデレの中では、奥様は凄く美化されていて私は…

20120622




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