何度でも誓うよ
「本当にぴったり隠れちゃうんですね…っ!」
興奮気味の姫の声。 金環日食が朝から見られるというニュースを聴いて、出勤するのを少し遅らせたのはやはり正解だったな…と、うっすらと口元に浮かぶ笑みを隠しながら姫を見れば、目の前で起こる現象に目をキラキラさせていた。
「太陽が月ですっぽり覆われて…」 「…俺がお前を抱きしめてるみたいだよな」
後ろから腕を回して抱きしめれば、びくりと硬直する姫の身体。結婚しても不意打ちには弱いらしい。
「大丈夫、なにもしないから安心しろって。それより、見てみろ」 「?」 「輪の上の部分から、光が上に広がってるのが見えないか?」 「ぁ…確かに!」
ぴったり輪が重なった部分から少しだけ漏れた光。それがまるで…
「ダイヤの指輪みたいですね」 「俺も同じこと考えてた。なぁ、覚えてるか?星をなぞりながらお前に冬のダイヤモンドを贈った日の事」
こくんと頷く姫。 あの頃はまだ学生で、一生を背負ってやるなんて言える立場じゃなかったけど、姫の将来が、姫との将来が欲しくてつい約束をしてしまった。
「実際は世界で一番大きい、とはいかなかったけどな」 「そんな、私にとっては世界で一番嬉しいダイヤモンドでしたよ?」 「ははっ、お前のために選んだんだ。お前が喜ばないものを贈ったりはしないよ」
…なんて。 自信はあったけど、やっぱりプロポーズは緊張したな…と、姫が頷いてくれた現実を噛みしめたくて、腕の中の姫をぎゅっと抱きしめる。
「本当は、お前に金環日食の指輪をプレゼントしようと思ってたんだ。でもやめた」 「…どうしてですか?」
ちらりとこちらに向き直った姫の顔には困惑の情。髪を少し撫でてやりながら俺は口を開いた。
「あれはサイズが合わないだろ?」 「まぁ…そうですね」 「だから、こっちにしておく」
髪を撫でていた手を頬に滑らせて、口付け。舌を絡めるようなやつじゃなくて、気持ちが通えばいいな…なんて思いながら長めに。
「…不意打ち禁止です」
名残惜しく唇を離せば、姫からそんな言葉が返ってきた。
「不意打ちじゃないと逃げるじゃないか」 「朝から恥ずかしくないんですか!?」 「姫に触れるのに恥ずかしいもなにもないだろ」
照れて顔を紅くする姫に本日二度目の口付け。 その口付けに込められた意味は、俺だけが知っていればいい、そう思わせるような感触だった。
何度でも誓うよ
(指輪なんてなくていい) (俺がいて、お前がいる。それだけで十分だ)
----------------------------- あぁぁ… 遅れた上に金環日食関係なーい\(^o^)/
20120522
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