青いベンチ







…星月学園へ続く並木道を歩くと甦る、あいつとの思い出。こっそりと二人で抜け出した授業、初めて繋いだ手の感触。何もかもが昨日のことのように思い出される。
そんな懐かしさから屋上庭園にのぼれば、あいつを待たせていたベンチが当時のままそこにあった。

もう、5年になるのだろうか。
最後にバイバイと手を振ったあいつの顔が忘れられない。
別れた理由は簡単だった。俺の気持ちがわからない、はっきり突き付けられたその一言。
あいつにそう言われるまでは自分の行動を気にしたこともなかった。
当時の俺は、月子を何よりも優先していた。罪滅ぼし…そんな言葉がぴったりくるような行動。あいつはそんな俺の行動を理解してくれてるって、なんの根拠も無しにそう思ってた。

「自分勝手だったよな…ほんと」

自分を嘲笑うような笑みが口元に浮かぶ。
好きだとあいつに言われて本当に嬉しかったのに、俺はあいつに何をしてやれたんだろう。




ベンチを見ながら、当時に思いを馳せる。最後の瞬間まで、俺はあいつを待たせてた。俺が先に約束の場所に迎えたことなんて、本当に数えるほどしかなくて。

「…………」

あいつはこのベンチで、なにを想いなにを見ていたのだろう。
そんなことにすら気づけなかった俺は、なにをしていたのだろう。

「好きだ…なんて、今更だよな」

別れてから大切だと気付くくらいなら、声が枯れるくらいに好きだと言えばよかった。
中途半端な思いで付き合ったんじゃないのに、結果的にそうなってしまった恋。

『ごめんね』

あいつは最後にそう言った。
悪いのは俺なのに、傷付けたのは俺なのに…あいつは泣きながら俺にサヨナラを告げた。
去り行くあいつを抱き締められればどんなに良かったんだろう。でも、当時の俺にはあいつの涙を拭える資格なんてなかった。



あれから季節は巡って、思い出は思い出となり、なにもかもが進んで行くなかで、胸に残した傷だけがいつまでも疼いて消えてくれない。

逢いたくて仕方ない、もう二度と戻らない時間だって分かってるけど…やり直しが効くなら…

「今度こそお前を離さないから…だから、」

なんて。
思ってみても卒業した学校にあいつが居るわけもなくて。
俺はあいつが待っていたベンチをもう一度見てから屋上庭園を後にした。

校舎を出て、並木道に足を運ぶ。
もう桜なんて咲いてなくて、鮮やかな緑が溢れる道。
…その中に、見つけた花。


「…嘘、だろ」

姫がいた。
向こうは気付いていないみたいだけど、もう何年も経ってしまっているけど、姫はずっと綺麗になってそこにいた。

どうして?なんでここに?
疑問符がぐるぐると回る頭ではうまくものを考えられない。

声を掛けようか迷っていたら、姫がこちらに気付いたらしく、ゆっくりと歩いてきた。
サヨナラを告げたあの日の顔はどこにも無くて、その顔から表情をうまく読み取ることはできない。

「久し振り、だね。元気にしてた?」

その声もやっぱり姫で、彼女はなにも言わない俺を見て少し困った顔をした。

「一樹の思ってることを当てようか。『どうしてここに居るんだ?お前がここに居るわけないのに』…当たってる?」
「…あぁ」
「一樹がここにくるって桜士郎に聞いたの。彼、まだ一樹のストーカーしてるの?」

桜士郎…
ここにくるきっかけになった人物。
久し振りにあったのに、いきなり部屋に上がり込んだあいつは、ばさばさと学生時代のアルバムを引っ張りだして俺に見せた。

『そろそろケジメつけなよ、もういい歳でしょ』

なんて皮肉を並べながら。
桜士郎には全部バレていて、不器用な男だ…なんて散々言われたけれど、言い返す言葉がなくて。
思い出話に花を咲かせてしまったし、日本にいる間に星月学園に来よう…そう思い立ったのに、まさかはめられていたとは。

「…全部繋がったよ」
「そう…」

良かった、と微笑む姫。

「お前がここにいるって事は、そういうことなんだな?」
「そういうことって?」

わざとらしく訪ねる姫の表情は、付き合っていた頃と変わらないそれ。


「逢いたくて仕方なかったんだ」
「うん」
「別れてから、反省した」
「随分長かったね?」
「言うなよ、逢って貰えるなんて思わないだろ?」
「ごめんごめん、そうだね」



「好きだ、もう一度…やり直してくれないか?」



首を縦に振ってくれたら、俺はもう…お前を離したりはしない。






青いベンチ

(情けなくていい…カッコつけたくない)
(無くすくらいなら…プライドなんて要らない)

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青いベンチは悲恋です。
悲恋を何とかしてハッピーエンドにしたいな〜ってTwitterでぼやいて作りました。
なんて捏造…そして無理矢理感。


20120521




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