口説き文句禁止令







「一樹さん、お風呂あがりましたっ」

私が声をかけると、ソファーで眼鏡をかけて新聞を読んでいた一樹さんが振り返った。

「おかえり、ゆっくり出来たか?」
「おかげさまで」
「…姫、ちょっとこっち来い」

おいでおいでと手招きされて近付けば、テーブルの上に飲みかけのコーヒー。お風呂に入る前に淹れてあげれば良かったな…って後悔をしていたら、ソファーに抱きしめるようにして座らされた。

「一樹さん?」
「髪が濡れると、なんでこんなに色っぽいんだろうな…」
「…っ!」

衣服で隠せない首もとに伝う舌。髪から滴る水滴とは違うそれに反応する身体。反射的に逃げようとする身体を、一樹さんはがっしりと抑え込んだ。

「逃げるなよ」
「だ…だって首!」
「…悪かった、何もしないから。だから逃げるな」

有無を言わせないそれに、ぴたりと止まる私の身体。そんな風に言われて拒める人なんてきっといない。
先にお風呂に入った一樹さんの髪は乾いていて、いつもよりぺしゃんとなった髪が、なんだか可愛らしかった。

「私がお風呂に行って寂しかったんですか?」

なんて、少しだけ意地悪を言ってみたりして。
すると、予想外の言葉が返ってきた。

「寂しかった。だから明日からは一緒に入るぞ」

と。
その言葉に紅くなる私の顔。

「な…なんでそうなるんですか!」
「夫婦だろー?一緒に入るのの何がおかしいんだ」
「へ…変態っ!」
「こら!誰が変態だ!」

ベッドの中で、電気を消してしまっていても恥ずかしい私にとっては拷問でしかないそれ。
嫌です!と主張しても、もう決めたの一点張りで掛け合ってくれない一樹さん。

「大丈夫だ、お前の身体は見慣れて…」
「最低です!」
「事実だろ?それに、同じ家にいるんだ。一秒でも多く傍に居たい」
「一樹さん…」

凄く真面目な顔でそう告げる一樹さん。
もしかしたら、仕事でなにか辛いことがあったのかもしれない。
ご飯の時にもっと話を聞いてあげればよかった、と少しだけ後悔。
一樹さんはいつも、その日にあった楽しいことしか話さないから、辛いことがあったのなら私から聞いてあげなくちゃいけない…けれど。

「それとこれとは別なので、お風呂には一緒に入りません」

言い切った私の顔を見て、一樹さんは盛大なため息をついた。






口説き文句禁止令

(だって狡いです)
(私だけがこんなに好きみたいで)

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どこを目指して書いたのか。
旦那様になると変態具合に拍車がかかります…






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