ヤンデレ王子とダメ女







私の旦那様は本当によく出来た人で、思えばそれが私をよりダメにしたのかもしれない。






「姫、朝御飯出来たぞ。起きないと仕事、遅刻するんじゃないか?」
「ん〜…起きる…」

朝は勿論私の方が起きるのが遅くて、錫也も仕事があるのに朝御飯だけじゃなく、ご丁寧にお弁当まで持たせてくれる。

「本当は仕事なんてしなくても、俺が食わせてやれたらいいんだけどな…」

これが錫也の口癖。
私も別に仕事が好きなわけではないけど、辞め時が分からなくてダラダラと働いている。このご時世、仕事が見つからない人もいるんだから、なんて動機だと思われそうだけど。

「なぁ、仕事…辞めても良いんだぞ?」
「うーん…、錫也の居ないおうちに一人で居るの嫌だから、お仕事頑張るよ」
「姫…」

きゅーんって顔をしてぎゅーってしてくれるのは嬉しいんだけど、私が心配してるのはお昼ご飯だったりして。だってお仕事を辞めたらお昼ご飯のお弁当は無くなっちゃう。

「じゃあ、行ってくるね。晩御飯はハンバーグが食べたいな〜」
「分かった。買い物して帰るから、ちょっと遅くなるかも。姫の方が早かったら、いい子で待ってるんだぞ。ほら、ブラウスの襟が中に入ってる」

学生時代からの過保護っぷりは相変わらずで、本当なら妻が旦那様のネクタイを直してあげなきゃいけないのに、私の方が直される始末。私がきちんとしていても、錫也のネクタイが曲がっているなんて想像もつかないけど。






夕方、朝錫也が言った通り私の方が早かった帰宅。靴を脱いでリビングに行くと、そのままソファーに倒れ込むと心地のいい感触が身体を包んでくれる。

「お風呂くらい洗うべきかな…、ううん…その前にご飯のよう…い…」

動かなきゃいけない、と頭ではわかっているのに、瞼が重力に勝てなくて、私はそのままソファーで眠ってしまった。



夢の中。
これは夢だなって分かってしまうような夢。
だって私の前で錫也が怒っていて、床には料理がお皿ごとめちゃくちゃに散っていて。
朝リクエストしたハンバーグが無惨なことになってしまっている。
錫也が何を言ってるのか聴こえなかったけど、多分私が錫也に甘えてしまって家事をしなかった事を責められている…そんな気がした。
朝から感じていた錫也への申し訳なさが、こうして夢になったのかもしれない。
暫く怒っていた錫也は、一つため息をついて私に背を向けて何処かに消えてしまった。
待って…錫也、錫也…っ!



「姫、大丈夫か?」
「ん…すずや?」

目を開くと、心配そうな錫也の顔。
うなされてたぞ、って私の額の髪を少しはらってくれた。

「おかえり、なさい…」
「ただいま、遅くなってごめんな。ご飯、もう出来るから」

私の様子を確認した錫也は、頭をよしよしと撫でたあとキッチンへと姿を消してしまって、ソファーに取り残された私は、今更身体にかかっているブランケットに気付いた。

「………」

罪悪感を感じてしまうなら、もっと錫也を助けてあげられればいいのに。
その気持ちに嘘はないけど、いざ家事をするとなるとどうしても出来ない私。
さっきの錫也の調子だとお風呂のお掃除もして、多分晩御飯も私がリビングに行く頃には出来てるんだろうな…って思ったら、なんだか情けなくなった。



「どうかしたのか?あんまり箸進んでないみたいだけど…やっぱり煮込みハンバーグより普通に焼いた方が…」
「ぁ、ううん!そんなことない…凄く美味しい」

予想した通り晩御飯は出来上がっていて、いつ私が来てもいいように温かいままの食事が用意してあった。

「良かった…、姫がいつ起きてもいいように、煮込みハンバーグにしてみたんだ。焼くとどうしても固くなるからさ」

錫也の気遣いが苦しい。結婚してこんな風に思ったことはなかったのに、夢のせいでなんだか凄く申し訳ない気持ちになる。

「ねぇ、錫也」
「ん?」
「錫也は、その…家事したりするの嫌にならない?」

ぽつりと訪ねた一言に固まる錫也。そっと箸を置いて、どうして?と尋ねる瞳には、どこか読み取れない気持ちが見えた。

「だって…お仕事して家事してって大変だよ?本当は私がしなきゃいけないのに…」
「…なるほど、お前が元気ないのはそういうわけか。家事をするのは嫌じゃないよ。姫だって働いてるし、手の空いてる方が家事をするのは当たり前だろ?」

私も錫也と同じくらい手は空いてるんだけどな〜とは言えず。黙って聞いていたら、錫也はまた口を開いた。

「それに、俺はお前のためならなんでもしてやりたいんだ。料理をして姫の手が傷付くなら料理なんてしなくていいし、掃除をして姫が埃を被るくらいなら俺が被るし。洗濯だって、万が一お前に洗剤がかかったら…」
「あ、あの…錫也…」
「ごめん、でもそう思ってるのは本当。だから、姫はただ俺の傍でご飯を美味しそうに食べて、幸せそうに笑ってくれればそれでいいんだ」

嗚呼…なんてよく出来た旦那様。
こんな人がよく私と結婚してくれたなーなんて思うけど、周りからは本当に錫也でいいの!?って何度も聞かれた。その意味は未だに分からないけど、堕落した生活を許してもらえるなら、これ以上に楽な生活はない。

「さ、姫の悩みが無くなったなら、ご飯の続きにしよう」

にっこりと笑う錫也をみて、仕事を辞めてもお弁当作ってくれないかな〜と思いながら、私は錫也の作ったハンバーグに箸をつけた。






ヤンデレ王子とダメ女

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どうにかして錫也ンデレに屈しない方法を考えた結果出来上がったもの。
これなら勝てる気がした…


20120509




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