堕ちるまで、もう少し
泣き啜る声、ガンガンと扉を叩く音、それから助けを乞う叫び。最初はとにかく凄かった。状況を理解していなかったのもあるかもしれないけれど、真っ暗な中であれだけ出来るのはかなりの精神力が必要だと思う。 それが次第に小さくなり、やがては音すら聴こえなくなってしまった頃、僕は漸くその扉を開いた。
「…………」
もしかしたら死んでしまったのかもしれない。 そう思わずには要られない位、彼女…姫は衰弱しきっていた。 暗闇に長時間身を置くと、人間は精神を狂わせてしまうらしい。それを目の当たりにして、思わず言葉を無くしてしまった。
「……消毒をします。叩きすぎて血が」
振り払われるかと思ったけれど、すんなり持ち上がった姫の手。ドアを激しく叩いたからなのか、抵抗する事を諦めたからなのか、その手には力が感じられなかった。
「痛かったら言ってくださいね」 「…………」 「とは言っても、あまり緩和する事は出来ませんが」 「……………」
姫はじっと、僕の手当ての様子を眺めていた。表情を変えることもなく、もしかしたら瞳にはなにも映っていないかもしれない、そう思わせるような目付き。
「声は出ますか?喉を傷めているかもしれませんね。後で薬を…それから、」 「なにを…」 「…………」 「なにを、言ってるの…」
掠れた声、聞き取るのがやっとなくらい…小さくて消えてしまいそうな声。
「…とにかく食事をとりましょう。話はそれから…」 「ねぇ!何言ってるの!?」
先程からは考えられないくらい大きな声で、掴んでいた手は僕の胸ぐらに掴み掛かっていて、あの手の何処にそんな力があったのかと思うくらい、強い力で食い寄られた。
「あなたが…あなたがした事でしょ…っ!何でこんな…」 「思考が混乱しているんですね…可哀想に。大丈夫ですよ、落ち着いて下さい」 「違うっ!閉じ込めたの…あなたが私を」 「…食事を運びますね」
服を強く掴んで居た手を払い落とし、扉を開けて外へ。再び灯りが無くなった部屋に、姫の声が響き渡った。
「もう止めてよ!!ここから出して!出して…っ!お願い…」
声が遠くなる…それに連れて暗闇と静寂のみが部屋を支配して。 それを見届けた僕は、姫の傷口を拭ったガーゼや、彼女が触れた服を優しく撫でた。
堕ちるまで、もう少し
(極限の状態で触れる優しさは) (何物にも代えられない最高の依存要因)
----------------------------------- ぬるい…ww そらそらに監禁されたいお嬢様へ捧げます…♪ 100回記念より前に書き上がっちゃった☆
20120507
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