想いを込めてキスをしよう







「ただいま」

久しぶりの我が家。
前に帰ったのはいつだっけ?もう姫と何日も顔を合わせていない。
最近は、いよいよ忙しくなってきて、家に帰るのもままならない日々だった。
勿論自分で選んだ道だし、可能性を確固たるものに変えていく充実した毎日だったけど、愛する嫁に逢えないのはやはり堪える。


「ぁ!おかえり!やっと帰ってきたね!」

キッチンへと歩を進めていたら、皿を持った姫がキッチンからひょっこり顔を出した。

「ずっと帰れなくてごめん…」
「なにいってるの!それが梓の選んだ道なんだから、私はちゃんと応援するよ」

あぁ、いつもの姫だ。
寂しかった、一緒に居たい…そんな言葉はベッドの中でしか聞けなくて、姫はいつでも僕の決めた道を応援してくれた。



「約束、ちゃんと守ってくれてるしね?」

二人だけの約束。
いってきますをしたら、必ずただいまを言うこと。
何があっても不思議じゃない環境に身を投じる僕に、姫が持ち掛けた約束。
姫が言うには、いってらっしゃいとただいまには魔法の力があるらしい。
それらの言葉を掛けて貰うだけで、本当に生存率が延びるだとか統計が出ていると前に話していたのを思い出した。

「ごめんね、ご飯もう少しかかりそうなの」
「いいよ、予定より帰るのが早かったから」

そう言うなり、姫はぴょこりと台所に隠れてしまった。大方、急ピッチで晩御飯に取り掛かっているのだろう。

「すぐ作るからお風呂入って!ぁ、あと子供出来たから!」
「はいはい…………………え?」
「だから、先にお風呂…」
「いや、そのあと!」
「………子供が、出来ました」

聞き間違えだとかそうじゃないとか確認する前に、姫が消えたキッチンへと駆け出した。
キッチンに一歩入ると、コンロの前で僕を見つめる姫の姿。
さっきははっきり見なかったけど、今はその顔に紅が差していた。

「……」
「あ、梓?」
「…ぁ、ごめん。凄くびっくりして言葉が出なかった」

不安そうに僕を呼ぶ姫。色んな思いがぐるぐると頭を支配するのが分かった。

どうして早く言ってくれなかったの?
どうしてこのタイミング?
いつわかったの?

そんな言葉達のどれもが、今伝えたいことじゃなくて、僕はそっと姫を抱きしめた。
それしか出来なかった。



「ありがとう」



口を付いて出た言葉。
問い詰めたい気持ちはある。
でも、それ以上に溢れる感謝を伝えたい。


「ほら、泣かないの」
「っ、だって…ずっと不安で…!なんて話したら良いかも分からないし、梓居ないし…っ」
「ごめん…僕が悪いね。帰らなくて本当にごめん」

腕の中で泣きじゃくる姫の髪をそっと撫でながら、僕は静かに口を開いた。

「…これからも、何日か泊まり込むことがあると思う」
「うん…」
「でも、必ず帰ってくるから」
「うん…」
「…ダメだな、全然上手く話せない」

いつもなら、泣いている姫を慰めるのが僕なのに…
感情が高揚して言葉が上手く紡げない。
だけど、気持ちが溢れ出すのは止められなくて。






想いを込めてキスをしよう

(あれこれ気持ちを伝えるのは後でいい)
(今はただ、ありがとう…それだけを貴女に)

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ぴゃー…
書いちゃったぴゃー…
昼間に素敵な呟きを見て、こっそりパクろうとしたらネタを頂けまして。
頂いたら書かないとダメだろうってことで、梓くんと妊娠ネタを。
鴇しゃん、いつも素敵なネタをありがとう!

20120506











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