嫌じゃないくせに







伸ばした手の先に
君がいる。






「一樹!凄い!凄い!」
「お前さっきから凄い、しか言ってないぞ」
「えと…、じゃあ…綺麗!大きい!」
「小学生の絵日記じゃあるまいし」

端的な姫の感想に苦笑しながらも、空を眺めればいつもより大きくて明るい月。スーパームーンと呼ばれるその現象に気付いたのは、先程七海から入ったメールで。
窓の外を眺めてみれば、七海が添付してくれたそれより美しい月の姿。
彼の技術の問題ではなく、美しいものはこうして自分の目で愛でる方が何倍も美しい。

「…本当に、綺麗だな」

思わず息を付いてしまいそうな月。最近は雨で曇っていたから、今日みたいにこうして月を眺めるのも久しぶりだ。
ちらり、と隣を見れば、月に照らされた姫の横顔。スーパームーンを焼き付けておきたいのか、熱心に瞳は空を眺め、真剣な表情だ。
それは星を眺めるときと同じで、この横顔を独り占めしたい、そう思った星月学園のあの日々はもう何年前になるのだろう。

こうして同じ家に住み、空を眺めて言葉を交わす。俺がずっと欲しかった愛の形。

「姫…」

そっと髪に触れて唇を落とせば、なぁに?と気の抜けた返事。

「月を見てたら襲いたくなった」
「な…っ、」
「いいだろ?…拒むなよ?」
「お…狼男…っ!」

例え方があまりにもおかしくて笑えば、笑わないで!と俺の肩を叩く姫。
そんな姫を宥めながら、瞼にキスを一つ落として、耳元で囁いた。






嫌じゃないくせに

(月は人を狂わせるんだ)
(あながち間違いじゃないだろ?)

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綺麗でしたねスーパームーン。
月を題材にすると物凄い数の作品が出来上がってしまうので、その中でも短くて済みそうなものを選びました…
牡羊の皮を被った狼さん。

20120505




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