ずっと、このままで。進めなくても、いい。
何かを始めるには、何かを捨てなければいけ ないらしい。 でもこの恋を捨てるくらいなら…
「お前らって付き合ってんの?」
一樹と勉強会を図書館でしていたら、クラスメイトに声を掛けられた。確かにテスト前や課題が出たときなんかはよく一緒に勉強している。私と彼の得意分野が正反対なのもあって、苦手克服にはもってこいなのだが。
「いや、付き合ってないよ」
さらりと一言。だって付き合ってないし。隣を見れば特に気にした様子もない一樹。私たちはなんていうか、そういう関係ではないから。
「家族愛ってのか?俺は姫のこと愛してるぜ」 「私もペット感覚で愛してる〜」 「お前…っ」
けらけら笑いながら言えば、片手に握りこぶしを握ったら一樹が軽く頭を小突く。痛くはないから回りから見たら、じゃれているようにしか見えないのかもしれない。
「はいはい、俺が悪かったからいちゃつくな。課題、頑張ろうぜ」
そう言い残し、クラスメイトは立ち去ってしまった。一つため息をついて、課題を見据える。あんな風に聞かれるのは珍しいことではなくて、日常茶飯事的になってしまっていて…。確かに一緒にいる時間は長い。でも常にべったりというわけではなく、一樹には生徒会の仕事もあるし、いつも一緒には居られない。
「なぁに考えてるんだ?」
ペンが動いてないぞ、と一樹に言われて慌てて課題に取り掛かる。それでもぼんやりと先程考えていたことが気にかかり、いまいち集中できない。
「ねぇ、」 「俺たちは俺たちのままでいい、だろ?」
一樹は私の心を詠めるのだろうか。そう考えずには居られないくらい的確な答え。あぁそうだ、彼は漠然と未来が詠めるんだった。この場合はそうではないのだろうけど、たまにその力を羨ましく感じる。
「まぁそうなんだけどさ。一樹には見えるの?」 「ん?」 「これからの私たちの関係。ずっとこのままで居られるのかな」
彼には見えているのだろうか。だったら凄くズルい。私は一樹の手の中で躍らされているみたいで、不服。
「見えてたら?不満か?」 「え、何それほんとに見えてるの?!」 「さぁな」
くっくっと笑って誤魔化された。見えているとしたらどのくらい?私は貴方とずっと一緒に居られる?一樹に尋ねてしまった事により、急に不安が押し寄せてきた。今、目の前から彼が居なくなったら私はどうなるのだろう。
「はぁ…、ったく、顔に出てるぞ」 「だって…」 「そんなに心配なら、付き合うか?」 「え、え…えぇぇぇっ!」
俺は別に構わないけど、なんてあっさり言うものだから更に驚いた。今までからかわれても否定し続けてきた関係を、一樹はあっさり距離を詰めて持ち掛けてくる。付き合ったら、こんな心配しなくてもいいのかな、という淡い期待を抱いたが…
「いや、いいや」 「姫…あっさり振りすぎ」 「だって、始まったらいつか終わりが来る…」
そんなの私には耐えられない、と言うとやれやれとため息が聞こえた。今日が始まりだとしたら、私はこれから終わりを見据えて一樹と過ごさなければならない。それは嫌だ。一樹の事は好きなのだと思う。歪んでいるけど恋してるんだと。しかし、始まりの一歩は怖くて踏み出せなかった。
「まぁ姫がそう言うならいいけど。さ、課題やっちまおうぜ」
一樹はまた、平然とした顔で課題をこなし始めた。告白して振られたのに、接し方は全く変わらない。その表情にほっとしたのに、どこか痛んだのは何故だろうか。
(ずっとこのままで。 進めなくても、いい。)
------------------------- ぬいぬいは付き合いたいけど、姫が傷ついたりするのが怖くて茶化す。 姫は始まりには終わりがあることを恐れて、いつまでも踏み出せない。 そんなのが書きたかった、書けなかった…
20120205
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