終わらない恋になれ







「わぁ…満開…っ」

思わずそんな感想が漏れてしまうくらい綺麗な桜だった。隣で一樹が本当だな…って呟くのが聞こえる。
お昼の桜はそれで味があるけれど、夜桜も悪くないよな?と彼に誘い出されたのはつい先程の話で、いつものように温かくしてこいよって言葉と共に切れた携帯電話で写真を撮ろうとして止めた。

「なんだ、撮らないのか?」

横で私の行動を見ていた一樹が不思議そうに訊ねてくる。携帯を出した時には撮りたいと思った。けれど…

「あんまりにも綺麗すぎて、どこを切り取ったら良いか分からなくて…」
「はは、姫らしいな」

これが桜士郎や哉太くんだったら違ったんだろうな…なんて考えが頭を過る。私が今この風景を収めても、後で見たらきっと褪せてしまう。だったら目に、記憶に焼き付けよう。そう思い携帯をしまうと、一樹にその手を取られた。

「空いたなら、手…繋ぐだろ?」

柔らかく微笑む彼の顔が月明かりに照らされて、普段の何気ない時でもドキドキしてしまう心臓がドクン、と大きく脈を打った。…その表情、反則です。
手を握り返すと、よしよしと満足げに歩き始めるから、私もそれに合わせて歩を進める。少し風が出てきて、桜の花びらがひらひらと舞う様は何かの物語のようにロマンチックな演出をしてくれて、ただ歩いているだけなのに特別な事をしているみたいでわくわくした。
いや、してる…か。

「一樹、お誕生日おめでとう」
「なんだ?朝も聞いたぞ?」
「いいの!」

何度だっておめでとうって言いたいからって言ったら、ムードに酔ったか?って笑われた。図星過ぎて返す言葉もない。

「おいおい、黙るなよ」
「…バ一樹」
「バ…っ、誰がバ一樹だ!ったく…でも、これだけ綺麗だとムードに酔うのも仕方ないか…」

今まで進めていた歩を止めて一樹が立ち止まるから、私も合わせて立ち止まる。そしたら繋いだ手を離すからびっくりして顔を見たら抱きしめられた。

「俺さ、今こうして隣に姫がいるのが、たまに当たり前になりすぎて怖くなるんだ」
「一樹…」
「…変だよな、桜見てると…それが強くなる。桜の花びらが不安定に堕ち行くのに、言い知れない不安を感じてさ」

せっかく綺麗に舞ってるのに、涙みたいに見えるんだ…。と、そう小さく漏らす一樹。なんだか私が泣きたくなってしまった。

「ごめんな、こんな話…泣きそうな顔するなよ、ただの思い過ごしだから…な?」
「でも、それなんか凄くよくわかるから…」

散りゆくのは確かに綺麗。でも散りゆくその花を掴めないのも、散ってしまった後のあの悲しい気持ちも、私はよく知ってる。綺麗な物はその形を留めておけないの。美しいものの命は儚い。

「不安になるの、分かる。でもね、少しだけ違うよ」
「ん?」
「私は桜みたいに綺麗なだけじゃないから。だから散ってお仕舞いじゃないの」

嫉妬もするし、妬きもちもやくし、世界は平和であれとは願うけどそんなの無理って諦めてるし。でもエゴは強くて、私の周りは幸せであって欲しいなんて願う欲深さもあって。つまり簡単に散っては終われないのです。
そう伝えれば一樹は笑って、やっぱりお前は綺麗だよ…なんて言うから、私はまた言葉を無くしてしまった。

「花びらを絡めとる風も、手を招く地面も、全部全部無視して、俺の手の中に閉じ込めてしまえたらいいのに…」

その言葉と共に降り注ぐキス。いっそ閉じ込めてしまってよ…そう思ってしまうようなキスだった。






終わらない恋になれ

(あげるよ、望むなら)
(だって今日は誕生日、)
(貴方を世界一幸せにしなきゃいけない日)

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企画サイト様に提出したものになります。
他の方がきっと甘くしてくださると信じて、しょっぱいものを書いてみました。


20120419




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