征服される、でもそれが嫌じゃなかった。

終わりを迎えたはずの恋が
鮮やかに甦り私を満たしてゆく






半月前、結論から言うと振られた。それはそれはすっぱりと。私は一樹にとってそういう対象ではないらしい。伝えた後で、今までの関係にも戻れず、新たな関係も築くことが出来ずに後悔して泣いた。そもそも付き合える自信なんてなかったのだから、割と自分もバカになれるのだなとは痛感したけれども。

「おはよ、遅刻ギリギリだぞ」

振られた翌日、一樹は何事もなかったように声を掛けてきた。こちらが拍子抜けするくらいに自然に。それが嬉しくもあり、哀しくもあった。

「休もうかと思った」

鞄を置きながら、隣に座っている一樹に告げる。一体どんな反応を見せるのか、と思って待っていたが、そうか、とだけ返して会話は終わってしまった。昨日の事は無かった事になったのだと思い知らされた。


授業を終えて、下校しようとしたら一樹に呼び止められた。

「暇だろ?ちょっと付き合えよ」

私の予定なんかお構いなしに、彼は私を屋上庭園へと連れてきた。奇しくも昨日振られた場所。これが意地悪とか悪戯の類いならこいつは相当たちが悪い。

「なに?話なら早くして…」
「好きじゃないわけじゃないんだ」
「はい?」

いきなり振られた話題。その好きがどことリンクしているのかわからなくて、思わず聞き返した。一樹は罰の悪そうな顔をしながらも口を開いてくれた。

「姫の事、嫌いじゃない。寧ろ好きな部類だ」
「なにそれ今更」
「好き嫌いの問題じゃない。大切なんだよ」

言っている意味が全く分からなくて、イライラしたのが顔に出たのか、一樹はガシガシと頭を掻いた。

「とにかく!大切なんだ!だから傍には置けない」

それだけ言って一樹は立ち去ってしまった。唖然とする私を残して。昨日の自分の勇気は彼によって玉砕して、今日の臆病さも彼によって壊された。

「なんなの…意味わかんない」

私は一人取り残された屋上庭園で、誰に言うでもなく吐き捨てる。また今日からも貴方について悩まなくてはいけなくなった。




(征服される
でもそれがいやじゃなかった)

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実は続き物ではない短編もの。だったりする。

20120204





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