貴方の見る世界







世界は恐怖で
塗り潰されている










「この世界に来た時、どう思った?」

ライズしたアクセサリーの整理をしていると、姫がちょんと隣に座って此方を見た。姫から話し掛けてくるのは結構珍しくて、普段はティナやオニオンナイトなんかとよく話しているから正直少し驚いた。
しかも質問が唐突すぎで。でも変に世間話されても上手く返せる話題じゃないかもしれないし、おれ自身の事を聞いてくれた方が答えやすい。何故ならば姫とおれの生きてきた世界は全く別物で、基準になるものが曖昧すぎるからだ。

「んー、そうだなぁ」

世界に来た時、か。

「前の世界の記憶も曖昧だし、来ちまったなら楽しみたい…とは思った」
「怖くなかったの?」

姫の問い掛けに、アクセサリーを振り分ける手が止まる。彼女はそう感じて居たのだろうか。てっきり自分と同じくワクワクしているものだと思っていた。出逢った時の姫は、恐怖よりも勝っているものがあるように見えたから。

「おれは元々世界を旅してたからな。新しい土地に足を踏み入れるのは日常茶飯だ」
「そっかぁ〜…」
「姫は、そうじゃなかったんだな」
「あー…うん、」

歯切れの悪い彼女の返答。きっと察しの良いジタンなんかは姫の気持ちを汲んでいたんだろうな。ジタンが姫によくちょっかいを出していたのは、もしかしたら不安を取り除くためだったのかもしれない。あのフェミニストめ…。

「私は、怖かった。今も怖いよ」

膝をぎゅっと抱えるようにして、姫は感情を吐露した。姫は他の戦士とは違う、それはおれも気付いていた。それが彼女が纏う不安だとは気づかなかったけど。

「カオスの戦士やイミテーションとの戦いか?」

ふるふると首を振った後、姫は一息付いて口を開いた。

「世界に呑まれそうで怖いの」
「呑まれそう…?」

こくんと頷いて、姫はおれの前にあるライズされたアクセサリーを一つ手に取った。そう言えばアクセサリーを分けていた途中だっけ。でもそんな事より、姫の話の方が気になる。おれは身体ごと姫の方を向いて彼女の目を見た。

「あっちの世界が無くなって、こっちの世界に比重を置いてしまうようになる…みたいな」
「…えと、つまりどういう事だ?」
「前の世界の記憶が戻る度に、こっちの世界は偽物なんだって思うんだけど、だんだんこっちの世界の居心地が良くなってきて」

姫は一生懸命噛み砕いて話してくれるのだが、いまいち理解できない。多分それは姫も同じで、ごめん…伝わらないねと話すのを辞めてしまった。

「おれさ、難しいことはわかんねぇけど…あっちこっち考えてるから不安なんじゃないか?」
「え?」
「だからさ、どの世界に居ても姫は姫だろ?記憶が無くっても生きてる、その事実があればおれはいいかなって」

どの世界に自分が居るか、と考えると途端に世界は息苦しくなる。だからおれはそうしない。だって何処に居てもおれはおれだから。命が尽きるまで、沢山のものを無くすことになっても、おれがおれであることには変わりはないから。
姫は黙って聞いていたけど、そうだよね、と呟いて立ち上がった。迷いの色はもう無い。

「ありがとうバッツ!お陰で吹っ切れた。なんでこんな事で悩んでたんだろう」
「しかし姫って不思議なやつだよな」
「どうして?」
「普通は『戦うのが怖い』って言うもんじゃないのか?」

女の子だろ、と言えば、姫はくすくす笑ってとびきりの笑顔でこう言った。

「だって私、強いもん」

これだから女の子はわからない。記憶の中の感情と合致して、おれは苦笑いを浮かべた。












(恐怖の色で染まらぬよう
上からおれの色を塗る)

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TwitterのRTリクエストでした!
バッツは私の想像のキャパを越えていて、掴みきれない感じに…

20120306




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