始まりの音







自覚するのに
そう時間はかからなかった。











「准将!珈琲持ってきました!」
「…そこにおいてくれ」
「はいっ」

ぱたぱたと足音をさせて机の端に移動する姫。彼女は最近派遣されてきた雑用係のようなものだ。最初は要らないから帰れと突き返したのだが、前金を貰っているとかで一向に帰ろうとしない為、仕方無く傍に置いている。

「どうぞ」

と差し出された珈琲は、恐ろしいくらいに自分好みに淹れてあるし、熱すぎずに口当たりも良い。へまを繰り返すようなら荷物をまとめて追い出すのに、姫は言われたことを何でも完璧にやり遂げる。だからこそ追い出せなくて困っているのだ。

「お前ほどの実力があれば、こんなところで働かなくても生きていけるだろう」
「そうでしょうか?でも私、このお仕事好きですよ」

准将のお傍に居られますし、とやんわり微笑まれると言葉を無くしてしまう。姫が好意的に接してくれるのは気付いていたが、こういった不意討ちには弱い。あくまでポーカーフェイスは崩さずに、持っていた珈琲を机に置いた。

「いつ戦場になるか分からない場所なのに、か?」
「このご時世、どこに居ても戦場になり得ますので」
「……」

間抜けな質問をしてしまった。姫と話すと普段のペースを乱されてしまっていけない。小さくため息を付いて、中断していた作業を開始すべく書類に目を通す仕事に戻ろうとした時に、ある事に気が付いた。

「指…いや、手か。どうしたんだ」
「え?あぁ…」

言葉の尻を濁す姫。彼女の右手には包帯が巻かれていた。調理具で怪我をしたにしては大袈裟な包帯の巻き方。手の甲を覆う白に何故か不信感を覚えた。

「大した怪我じゃないんですけど」
「どうしたんだと聞いている」

怪我の具合が心配なのもある。しかし自分の中で今渦巻く感情は多分別のもの。姫は言葉を選んでいるのか、なかなか返答をしない。焦りと苛立ちから声を荒げようとした時、姫の口が開いた。

「クァールに、咬まれました…」
「…は?」
「だからその…クァールに、」

こいつはバカなんだろうか。姫の行動許可が降りている場所にクァールは居ない筈なのだが、疑いの目を向けていたら彼女はするすると包帯を取ってこちらに手を向けた。確かに、痛々しい傷跡。

「よく喰い千切られなかったな」
「フェイス大佐にも言われました」
「…何故クァールに咬まれるんだ」

行動許可範囲に指定していないだろと言えば、自分の部下が姫に見せたいものがあるだとかで、クァールのいるフロアに連れていったらしい。飼い慣らされたクァールしか居ない筈だが、普段見慣れていない姿があり、噛み付いたのだろう。

「すみません…」
「見せてみろ」
「、え…」
「手、見せてみろ」

苛立ちを抑えられないのは何故だろう。姫の手を見たときに感じた胸の締め付けが消えない。
恐る恐る差し出された手。出血した後と赤青くなった箇所を見て取れる。痛みはないのかと尋ねたら、まっしにはなりましたと返された。

「暫く休め」
「大丈夫です、お仕事に支障は来しません!」
「…命令に背くのはお前くらいだ」

同時に、たかが雑用が怪我をしたくらいで休暇を出す自分もどうかしているなと、脳の片隅で過った。つまり、自分は驚くほど彼女に惹かれているということ。

「准将の傍に居たいんです」
「ならば…」

掴んでいた姫の手を引いて、自らの腕の中に収める。吃驚して声を上げる姫を見て小さく笑った。










(ぁ、あの!准将!)
(声が裏返っているぞ)
(く、口許が笑ってます)
(………)

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リクエストしてもらった准将でした。
設定集買ってないのであれなのですが、ミリテスの中身なんかは公開されてないのかな…。

20120302




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