温もりは裏切らない







『戦うこと』
それが存在意義なのに、
私は迷って動けなくなる












酷く心が荒んでいた。
任務の後はいつもそう。もう何度目になるか分からないのに、私は武器を持って人を殺す事になれなかった。モンスターなら迷わず戦えるのに、生身の人間と向き合った時は必ず精神に異常を来す。

「こんなんでアギトなんて…」

なれるのかなぁ。時々そう考えて怖くなる。私が目指してる物は人外的な何かなのかなって。
でもそんな事誰かに話せるわけもなくて、私は疲れた身体を休めるべくサロンに向かった。



深夜のサロンは人気がなく、昼間のように談笑している生徒もいない。任務から帰った時に、少しでも休めるようにマザーが0組の夜間使用を認めているから入れるのだ。

「姫も来たのか」

手近にあったソファーに掛けようとしたら、先客のキングに声を掛けられた。まぁねと適当に返事をしてソファーに座ると、肩の力が抜けた。

「…つかれた」
「遠征だったからな」

自分の疲労の原因とは少し違う解答を突き付けられたけれど、キングにとっては遠征だった、で済む任務。先程の自分の考えが甘えた物だったのだと思い知らされる。

「私、向いてないのかな」
「………」

キングは無言のまま私の隣に座った。もう実戦も始まっている。いつまでも躊躇いを持っていてはいけない。頭では分かっているのに身体は動いてくれない。いやになる…ホントに。

「今日、何人ころしたんだろう」
「……」
「私、うまくころせなかった」
「……」
「一瞬迷うの。そこに隙が出来ちゃう。ダメだね、こんなんじゃ私」
「その辺にしておけ」

頬から涙が伝った。キングがこちらを向いていてそれを見ている。無様だ、凄く…。甘えた考えだけじゃなくてこんなみっともないところまで見られた。

「俺だって迷ってるさ」

引き金を引くのにいつも躊躇う、と吐露するキング。全然そんな風に見えないから驚いた。彼の銃口はいつも完璧に敵を捕らえてるんだって、そう思っていたから。

「でも護りたいものがあるから、俺はブレずに引き金を引ける」
「護り…たいもの?」
「お前だ、姫」

そっと頬に手を添えられて、触れられたところから熱が伝わってくるのを感じる。キングは私の目を真っ直ぐに見つめて再び口を開いた。

「戦場でお前が迷っているのは知っていた。いつも見ていたからな」
「ごめん…知らない間にフォローして貰ってたんだね」
「謝るな、そのおかげで俺は迷わず戦えるんだ。姫を護るためなら人だって神だって殺してやるさ」

いつもクールな彼からの意外な言葉。内にそんな考えを持っていたとは驚きだ。いや、本来彼はこういった人間なのかもしれない。

「そろそろ戻るか?」

頬から手を離してキングが立ち上がった。確かに今は真夜中だし任務の後だ。自室でゆっくり身体を休めたい気持ちもある。でも…

「もう少し、一緒にいない?」

キングと一緒に居たい。そう呟けばダメだと一蹴された。やはりキングも疲れているからだろうか?しかし何故と尋ねて返ってきた答えは意外なものだった。

「なにもしないで居られる自信がないんだ」
「それって…」
「バトルで気持ちが高揚してる…分かるだろ?」

キングは罰が悪そうに顔を押さえた。確かに魔導院までバトルハイ状態で興奮してたから、感情が高ぶって色んな事を考えていた部分もあった。今も多分、高揚したまま。だって貴方と居たいと身体が訴えてくるもの。

「いいよ」
「姫…」
「だから、一緒に居て」

ぎゅっとキングに抱きつけば、「知らないからな」と言って抱きしめ返してくれた。キングの体温、鼓動が伝わってきて胸がぎゅーっと締め付けられる。










(キスを一つ落として
私たちは堕ちた)

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キングと震えた身体を抱き合うような裏を、と言われて出来たもの。
おかしい、裏くない。
続きます…キングさんなんて奥手なの。
煩悩を押し殺して傍に居るとかイケメンすぎて手に追えない…


お題提供:確かに恋だった
20120226







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