いっそ触れられない場所へ
すき。 その感情だけで、 人はどこまでも堕ちてゆける
事の発端は些細な事だった。姫がエースと付き合いだした、ただそれだけ。最初は祝福してやるつもりだった。姫が幸せなら俺も幸せだから、なんてかっこつけて。でも現実はそううまくいかず、エースと姫が徐々に距離を詰めていくのを間近で見ていて、自分の心の醜さを目の当たりにした。
「エースとうまくいかないの」
そう告げられたのは先刻の事。教室で元気がない姫に声を掛けるとそう帰ってきた。あんなに仲が良さそうなのに、二人はうまく言ってないのかと少し驚いた。
「…そうか」 「変だよね、好き同士だから付き合ったのに…気が付いたらなんだかお互いに溝を感じちゃって」
辛そうに、でも無理に笑顔を作って笑う姫に胸を締め付けられる。俺なら、お前にそんな想いはさせないのに。
「…そう、だな」
そうとしか言えない自分がたまらなく嫌だった。そんなことないさ、頑張れよとも、もうやめてしまえよ、とも言えないそんな自分が。 姫は何故俺にこんな話をするのだろう。異性として見ていないから?頼れる、友人でしかないから?きっとどちらも当たっていて、自分の想いは儚い物だ。
「それでも、続けるんだろう?エースと」 「うーん、なんだかんだ別れられないのはやっぱり惹かれてるからなんだろうしね」
だったらこの話に意味はあるのだろうか、凄く不毛だ。エースとの惚気話をされても不快だが、結局姫はエースが好きで。その確認をさせられただけのような状況に心が荒んだ。 いっそ壊してしまおうか。この不安定で進展のない関係を。 そう考えたら堕ちるのは早かった。姫を引き寄せてぎゅっと抱きしめる。抵抗と抗議の声をあげる姫の首筋に口付けを落として、紅い花を一輪咲かせてやった。
「っ、なに…するのっ」
拒絶の目。それにすら興奮してしまう自分がどこかにいて、口許にはうっすら笑みが浮かんでしまう。 壊れてしまえばいい。この鬱血痕をエースに見られて捨てられてしまえばいいのに。醜い考えは止まらない。
「それ見せたら進展するんじゃないか?」
首筋を指差せば、姫はバッと手で覆って顔を赤らめた。最低、そんな言葉が聞こえた気がした。 最低なのは姫だろ?
「離して」 「そうするつもりはない」 「、なんで」 「好きだ」
姫が、好きだ。口に出せば後は簡単で。彼女が驚いて目を見開いている間に唇を奪う。口内に舌を這わせて掻き回せば、身体の力が抜け落ちるのがわかった。
「も…っ!キングっ」
口付けの合間を縫って姫が言葉を発しようとする。どうせ拒絶、聞く気にならない。 暫く口内を犯して楽しんだ後、唇を離せば、姫に頬を打たれた。
「どうしてこんなことするの…どうしてっ」 「愚問だな…」
はらはらと涙を流しながら俺を見つめてくる姫はとても綺麗で。涙を拭ってやろうとしたら手を払われた。
「私はキングとは付き合えない」
それだけ言い残して、姫は俺の前から立ち去った。追う気にはなれなかった。 俺はこんな風になりたかったのだろうか。それとも姫の隣でいい友達を演じていればよかったのだろうか。 打たれた頬が今更になって痛み始めた。
いっそ触れられない場所へ
(もう戻れない この関係の終止符)
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実はがっつり裏にいく予定だった… でも年齢を考えて読んでもらえないやめようって事で温くなった。 いつか裏に持ち込みたいな、キングは悲恋が好きです。 素敵なアイコンのお礼です〜!
20120224
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