それはお菓子より甘い…
さりげなく…さりげなく。 だって彼はきっと気付かないから。
「あ゙〜!やってらんねぇ!」
頭をガシガシ書きながら目の前の課題を見る。『再提出』と几帳面な字で書かれた付箋がやけに目についた。期限は守った、字も、なるべく綺麗に書いた。なのに再提出。ふざけんなよあの教官。 いつもの再提出組も今日は居らず、すっかり飽きてしまって、もう投げ出そうかなと考えていたら、教室の扉が開いてクイーンが顔を出した。
「ナイン、課題は終わりましたか?」
相変わらず聞いて欲しくないことをすっぱりと聞く彼女。無視してやれば、まだなんですね、とため息を吐かれた。
「何しに来たんだぁ、オイ」 「そろそろ集中力が切れる頃かと思いまして」
差し入れです、と小包を差し出された。驚いた顔をすれば、早く受けとれと無言の視線を感じたので、怒らせる前に受け取る。受け取ったら中身が気になるわけで、乱雑に包みをほどけば中からチョコレートが姿を見せた。
「疲れた時には甘いモノ、でしょう?」
彼女にしては甘やかした発言。ナインは首を傾げながらも、目の前のチョコレートにかじりついた。 うん、甘い。ちょっぴりほろ苦いのは甘さに飽きさせない工夫だろうか。というかこれは…
「…手作り」
ぼそりと呟けば、先程まで涼しい顔をしていたクイーンの頬が僅かに染まった気がした。だが、指摘すれば怒られるのは目に見えているので、黙って置くことにする。
「……」
しかし、見られながらモノを食すというのは、凄く食べ辛い。自分のボキャブラリーの無さを嘆いていたら、先にクイーンが口を開いた。
「美味しく…ありませんか?」 「はぁ?」 「先程から、難しい顔をして食べているので…」
心配そうな顔で尋ねられて、一瞬息が詰まりそうになった。クイーンでもそんな心配するんだな、そう考えたら口許に笑みが浮かぶ。
「な、なんですか!」 「いや、お前…可愛いな」 「っ、!!!!」
言って後悔。見る見る紅くなるクイーンを見て、自分の頬が染まるのを感じた。
「うめぇよ、すげぇな。」 「ほ…本当に?」 「あぁ、ごちそうさんっと…」
最後のチョコレートを口に含んでお礼を告げれば、クイーンはやっと安堵の笑みを浮かべた。その笑顔にこちらまでホッとさせられる。
「で、他の奴にはやったのかよ、」 「はい?」
わざとなのか本当に分かっていないのか。クイーンが首を傾げるものだから、空になった箱を振りながら、ニヤリと笑う。
「バレンタインだろ?今日」
その言葉を聞くや否や、立ち去ろうとするクイーン。逃すまいと咄嗟に後ろから抱き締める。
「ナイン…」
近くで聞こえるクイーンの声に心臓を酷く掻き鳴らされた。柄にもない事をして、柄にもなく緊張している自分。
「気付いていたのですね」 「で、やったのかよ、オイ」
もし挙げていたら自分はどうするのだろう。義理かと問うか?俺より先に渡したのかと嫉妬するか?何にせよみっともない。しかし聞いてしまった以上、引き下がるわけにはいかない。 すると、それまで黙っていたクイーンが、クスリと笑って、
「さぁ、どうでしょう」
なんていうもんだから、怒る代わりに彼女を思いっきり抱き締めた。
それは、お菓子より甘い…
(答えねぇ気だな…コラァ) (挙げてません、って言ったらどうします?) (喜ぶ) (っ!!!!!)
--------------------------- バレンタイン企画っ! ナイクイ難しい…主に口調。 彼らはきっと主導権の取り合いです…きっと。
20120206
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