その熱で溶けそう
「…いいか、僕はお前からチョコは貰わない」
バレンタインの当日に、まさかこんなことを言う男が世にいるでしょうか。ナインなんてあげる前から喜んでたし、あのエイトですらそわそわしてたのにこの男、エースは男じゃないんだろうか。
「理由は?」
本命なんて渡されても困る?好きじゃない子からは受け取らないってやつ?あぁ…私は気持ちを伝える前から玉砕してるのね。 頭のなかで失恋の二文字がぐるぐるし出した頃、エースはゆっくりと口を開いた。
「姫、料理下手そう」
と。 私は咄嗟にブリザガを放ってやろうとしたけれど、エースは軽い身のこなしでそれを交わした。嫌なやつ!どこまでも嫌なやつ!!!
「あんたね、口にいれてから不味いと言いなさい!」 「不味いなんて言ってない。下手そうだって言っただけだ」 「変わらないわバカ!」
たしかに私は料理が苦手。ハンバーグは黒いたわしみたいになるし、お米を炊いたらお粥になるし…。だから一人で最初から、なんて無謀な事は辞めた。本当は一人で作りたかったけど、渡せないものを作るよりは美味しいものを食べてもらいたかったから。 レムやデュースに手伝ってもらって、なかなかいい具合に出来たのに…。この男は最初から受け取り拒否。
「もういいや。ナインにあげてくる」
ナインなら、本命だろうと義理だろうと美味しく食べてくれるだろうし。じゃあねと踵を返して立ち去ろうとしたらエースに腕を掴まれた。しかも結構がっちりと。
「待て」 「なんですか」 「ナインはダメだ。処分するなら自分で食え」 「なん…っ!」
なんなんだこのワガママ王子は!!!処分ってサラリと言った上に自分で食べろって。なに、そんなに私のチョコは不味いと思ってるの。いくらなんでも失礼すぎでしょ。 なんだかムカムカして、その場でチョコを包んだ包装紙をビリビリと破いた。この包装だって、包み方を教えてもらって何度も練習したもの。それもこれも目の前にいるエースのため。 包みを捨てた箱の中には、昨晩完成させたチョコレート。
「分かりました。エースの言う通り自分で処分します。」
そう宣言して一つ掴んで口の中に。うん、二人の監修もあって凄く美味しい。エースにも食べて欲しかったな。そう考えていたらじわりと瞳に涙。情けない、目の前にエースがいるのに。
「…本当にするなんてな」
エースはびっくりしてこちらを見ている。なに、冗談だったの!?なんてたちの悪い冗談…全く笑えない。
「エースがやれって言ったんじゃない」 「姫は、僕が死ねって言えば死ぬのか」 「なにその揚げ足。」
相変わらずの減らず口。どうして私はこんなやつを好きになってしまったんだろう。後悔してももう遅いのだけど。その時、エースの手が頬を包んだ。
「なにす…」
反論しようとしたらキスされた。それも結構深いの。いきなりのことにビックリしたのと、キスで息がうまく出来ない。
「、っは…なに、すんの」 「確かに、不味くはないな」
エースはペロリと唇を舌で舐める。エロい、じゃない!こいつ、私の口のチョコレート食べた…。僅か数秒前の出来事に頬が赤らむのが分かる。当の本人はそんなことお構いなしに、姫にしては美味いななどと感想を呑気に述べている。
「なんなの…なんなの!?」 「僕以外にチョコを渡すのは腑に落ちない。でも不味いのを食べるのも嫌だ。だから姫の口からもら」 「やめて生々しい」
涼しい顔で言うもんだからこっちの気が可笑しくなりそうだ。つまり彼は私のチョコを食べたかった。そう解釈した。
「ほら、次を口にいれろ」 「はいはい、あーん」 「僕にじゃない、姫の口だ」
有無を言わずにチョコレートを放り込まれ、続いてエースの口付け。
その熱で溶けそう
(エースって素直じゃないよね) (ほら、次)
----------------------------- バレンタイン企画っ! エースってなんなの…。 八郎たんごめん、ただただ謝罪…
20120214
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