何気無い日々の








『たまには私にご飯を作らせて?』


冥土の羊のバイト帰りにマイを迎えにいって俺の家に向かう途中、マイから出された提案。
マイの手料理が食べられるなんて願ってもない相談だけど、冷蔵庫の中の品揃えの悪さは否めなくて、だったら今から買い物に行こうと言う話になった。

『買い物籠は俺が持つから。』

近くのスーパーで、入り口先にある買い物籠をマイから受け取ったのはつい先程の話。
ありがとう、ってふんわり微笑むマイの笑顔を見て、俺の口元も自然と和らいだ。

「ウキョウさん、なにが食べたいですか?」
「俺は特に食べられないものはないから、出されたらなんでも食べるよ」

食生活に本当に必要最低限にしか気を使わなくなってしまったから、何を食べたいかと聞かれると困ってしまう。
とりあえず、最悪死ぬ…という物で無ければ少々リスクはあっても食べるし、その点は生存競争では非常に優位な筈だ。
しかしマイの方はというとそうもいかないみたいで、複雑そうな顔をしていた。

「ウキョウさん」
「はい」
「何でもいいっていうのは、作る側にはすごくプレッシャーなんですよ?」

マイがいうこともよくわかる。残り物から何かを作り出すならまだしも、白紙の状態から何でもいいと丸投げされてしまったら、きっと俺も困ってしまうと思うから。

「そうだね、ごめん。俺の配慮が足りなかったな」

もう死を恐れたり、諦めたりする必要はないのに、あの生活が染み付いてしまっているこの身体は、なかなか元の生活には戻らせてくれないみたいだ。

「空腹を感じたり、当たり前に食事をとる事もしてなかったから、まだ実感がないのかもしれない」
「ウキョウさん…」
「マイは?マイはなにか好きな物はある?折角だから君の好物を一緒に食べたいな」

そうしたらきっと俺もその料理が大好きになると思う。なによりも大好きな君と食べた君の手料理。それだけで、幸せな想い出になるから…

「そうですね…オムライスはよく作ります」
「うん、いいね。じゃあそれにしよう。もちろん、ケチャップでハートマーク描いてさ」

じゃあ卵と…お米はありますか?なんて尋ねながら歩き出すマイの手をそっと握る。
あぁ…うん、夢じゃない。

「どうかしましたか?」
「なんでもないよ、行こうか」

彼女がゆっくりと俺の手を握り返してくれる。望んだありふれた幸せを感じながら、俺たちは買い物を続けた。






何気無い日々の

(ずっと欲しかった幸せ)
(ねぇ、まだ現実だって信じるのが怖いよ)

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ウキョウさんはきっと、成人男性が頼みにくそうなお願いとかさらっと言いそうです。
ケチャップでウキョウって書いてとか…メイド喫茶か\(^o^)/

20120804




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