ファーストキスは?







「は?」

冷蔵庫にかけようとしていた手を止めて疑問符。その疑問符の原因を持ちかけた本人は、自室のコンロでフライパンを菜箸でかき混ぜている。
所謂昼食作りの真っ最中。
オレはというと、そんな料理をするマイの様子を伺う都合のいい用事も浮かばず、冷蔵庫に入っている飲み物を漁ろうとしていたところだった。

「だからね、どうしてファーストキスはレモン味なのかな〜って」

先程と同じ質問を繰り返すマイ。それを聞いて、あぁ聞き間違いじゃなかったと、冷蔵庫の扉を開けながらため息。
どうしてそれをオレに聞くのだろう。
きっとマイの事だから深い意味はない。そう割り切って、さぁな…と答えれば済むのに、冷たくあしらった後のマイのしゅんとした表情を思い浮かべたら、切り捨てるのが躊躇われた。

「なんでそんな事気になんの?」

冷蔵庫からメロンソーダを出しながら一言。マイ自身は飲まないであろうそれが冷蔵庫の中に鎮座しているのは、なんだかこの家にオレの居場所が出来ているようでくすぐったい。

「シンは気にならないの?」

500mlのペットボトルの蓋を回していたら、マイに尋ね返された。

「特には。別に、調べようとか思わないし」
「探求心がないなぁ」

コンロの火を消しながら、食器出してないやと食器棚に向かうマイを目で追いながら、先程開けたメロンソーダを一口。
探求心…とか、そういう問題でもない気がするのだけれど、実際自分に好奇心の類いがマイほどあるかと言われたら、それは肯定しにくい。
食器棚から盛り付ける為の皿を選ぶマイの背中を見て、先刻自分が口にした言葉を思い出す。


『なんでそんな事気になんの?』


思い出して、幼稚な悪戯を思い付いた。
口元に笑みが込み上げるのを押さえながら、ペットボトルを手近にあった机に置いて、食器棚に目を向けているマイに背後から近付く。

「大皿に盛って取り分けようか…ってシン?!」

手に、底が少し深い白い大皿を持って振り返ろうとしたマイを、振り返れないように距離を詰めて逃さないようにし、壁に両手を付いた。
料理をしてるときは気付かなかったけど、こうして覗けば一つに結わえた髪が、うなじの艶めかしさを演出しているのが見てとれる。

「なに…どうしたの?」
「なんでファーストキスの味が気になったの?」

耳元に吐息が掛かりそうな距離で囁けば、皿を持つマイの手に力が入った。

「特に…理由は…」
「オレとのキスは、レモン味じゃなかったよな。覚えてるだろ…?」

付いていた片手をマイの頬に寄せて、そっと目線が合うように力を込めれば、伏し目がちなマイと目がしっかりと合う。


「し、シン…っ」
「忘れたなんて言わせない。…言って? なんの味がしたのか、おまえの口から聞きたい」

顔を近付ければ触れてしまいそうな距離で、びっくりして動けなくなっているマイに向かって呟けば、マイの顔に照れなのか恥ずかしいのか、よくわからない表情が混じってくる。


「遅い…、言えないなら、思い出せないなら思い出させてやるよ」
「…っ、シン…!」


マイが止める声を聞きながら、すぐ近くにあった唇に触れた。ぎゅっとマイが目を閉じるのを見て、オレもそっと目を閉じる。
暫く触れ合うだけの口づけを交わして、舌を捩じ込もうとしたらマイに逃げられた。

「…逃げんなよ」
「し、シンが悪い!!」

元々絶対逃げられないように追い詰めていたわけではないし、抵抗すれば逃がしてやるつもりだったけど、このタイミングで逃げられるのはなんか悔しい。
手に持っていた皿で口元を隠しているマイを見ていれば、それもどうでもよくなってくるんだけど。

「で?思い出した?」
「キスされる前から分かってたよ!」
「知ってた」
「なにそれ確信犯!?」

信じられない!とか、バカバカ!とか叫ぶマイ。流石に物は飛んでは来ないけど、この状況はめんどくさい。

「飯、冷めるんじゃないの?」

その一言で、そうだったとフライパンの方へ向かい、持っていた皿に出来上がった料理を盛り付けるマイを見て、思わず表情が緩んでしまう。

「ご飯出来た!食べよう、シン!」

くるりとマイが振り返る前に、オレはまたいつものポーカーフェイスを作るため、無愛想に返事をするのだった。






ファーストキスは…?

(甘い中に刺激を含んだ)
(メロンソーダ味)

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リクのシンくんで壁ドンっ!
前からは散々やられてるだろうから、後ろからにしてみました〜♪

20120802




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