キスなんて、奪うもんだと思っていた。
「…っ、シン…待ってっ」 「………」
いつものお決まりのやりとり。 俺がキスしようとしてマイが拒む。 もう何度も押し切ってキスしてるのに、何度口付けを交わしても慣れてくれないマイ。
「あのさ、いい加減オレもこのやりとりめんどくさいんだけど」 「だったらいきなりキスしないで!」 「じゃあ、『今からおまえにキスするから、目閉じて待ってろ』とか言えばいいの?そっちのがきつくないか」
オレの言葉に、そうじゃなくてとオレを納得させる言葉を探し始めるマイ。そういうのがもうめんどくさい。
「キスしたいからしてる、それじゃ納得してくんないの?」 「シンはされる側じゃないからわからないんだよ」
ポツリと呟いたマイの言葉。 えっと…それはつまり…
「じゃあおまえも、する側の気持ち分かんないだろ?」 「シ……んっ」
マイの顎を指で上にあげてキスを一つ。僅かに唇を離してうっすら目を開けたら、ぎゅっと目を閉じたマイがいた。
「おまえは知らないと思うけど、されるよりする方がずっとドキドキしてる」
何処までなら許してくれるのか、この拒みは拒絶なのか照れなのか…って、マイの表情や言動を見ながら事を進めるのって、他の何をするより心臓に負荷をかけるわけで。 ゆっくりと目を開けたマイと視線が交わって、数秒の静寂。
「…じゃあ、」
そう言って、マイの唇がオレに触れた。 時間にしたらほんの数秒の事だけど、その数秒の間に起こった出来事は決して些細な事ではない。
「ぁ、ほんとだ…する側も凄くドキドキするね」
照れながら微笑むマイにオレは、らしくなく頬の体温が熱くなるのを感じた。
キスなんて、奪うもんだと思っていた。
(奪う、奪われるじゃなくて) (求める、求められる…なのかもな)
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20120810
お題提供:たしかに恋だった
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