それは彼女の精一杯のわがまま
参考書を捲ってノートに文字を綴る。もう何時間繰り返したかわからないその行動に飽きを感じた頃、ちらりと携帯が目に入った。 徐に掴んでディスプレイを覗き混む。
新着メール なし
表示された時計を見て小さくため息。 受験生だから…と、マイを遠ざけたのはオレなのに、少し気を抜くとあいつの事ばかりが脳裏を過ってしまっていけない。 今日はバイトだっけ?とか、ヘマせずにやってんのかな…とか、休憩中に無意識に考えてしまう、オレと居ない間のマイの事。 しかしオレの気持ちとは反して、マイからの連絡を告げない携帯。集中力の切れも重なって少しだけイラっとした。
「こんなに想ってんの…オレだけかよ…」
用事がないのに連絡をするのは苦手だった。 何もないところから話題を振るなんて、マイ相手じゃなきゃ絶対にしない。
「……………」
手に取った携帯をジッと見つめる。 通話に出た時のマイの明るい声を聴いたら、もしかして自分が思っているよりもマイはオレがいない時間を楽しんでいるのではないか、と思うようになったのは最近の事。 それはなんだかマイが優位に立っているようで少し悔しい。 連絡をしようと持った携帯を置いて、オレは参考書に目を向ける作業に戻った。 今日はもうマイの事は忘れてしまおう。
「……?」
そう思いながら参考書のページを捲った矢先、空白部分に何か書いてあるのが目についた。 オレが使っているのは元々マイが使っていたものだから、もしかしたらマイが勉強する時に書き込んだのかもしれない。 何が書いてあるのか気になって視線を走らせたオレは、直後に硬直することになる。
「………っ、なんだよ…これ」
そこには、マイの字で控え目綴られた短い文章。それを読んで直ぐに、先程置いた携帯を掴んでマイに電話をかけた。
『息抜きに私を使ってみませんか?』
それは彼女の精一杯のわがまま
(明日バイト休みだよな) (ちょっと付き合って欲しいんだけど)
------------------------------------ 勉強中にシンが寝てしまったときにこっそり書いた…とかだと、個人的に非常に萌えます。
20120809
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