無意識を意識する
『トーマ、練乳ある?』
確か昨晩マイはそんなことを言っていた気がする。隣に眠るマイを起こさないよう、そっとベッドを抜け出した俺は、欠伸混じりの頭でぼんやりと考えていた。
「練乳…あったかな…」
お世辞にも物が揃っているとは言えない冷蔵庫。開けてみれば、イチゴを食べるときにマイが持ち寄った練乳が、ケチャップの隣に鎮座していた。
「これ…あいつも忘れてたよな…」
一応期限を確認すると…大丈夫、まだ食しても腹を壊さない。 練乳なんてなんに使うのかなと思いながら、また一つ欠伸をしてコンロで湯を沸かす準備を始めた。
「おはよぉ…」
トーストが焼き上がり、簡単な朝食が食卓に並んだ頃、ベッドからマイが起きてきた。
「おはよ、大丈夫?」 「…? なにが?」 「腰とか…」 「……っ!!だ、大丈夫!」
俺としてはからかう要素皆無で言ったんだけど、マイはそうは捉えなかったらしい。 まぁ確かに今の聞き方じゃ、昨日の夜がリアルに思い出されるか。
「顔洗っておいで。ご飯出来たから食べよう」
俺の声に、コクコクと頷いてマイは洗面台に向かった。 その間に、マイ用に紅茶を注いでやる。
「ミルクは…自分でいれるよな」
とりあえず出しておけば良いかと冷蔵庫から牛乳を取り出そうとしたら、寝起きに見た練乳と目があった。 あぁそうだ、出しておかないと…
「トーマ、それ練乳?」
洗面台から戻ったマイが、俺の手にある練乳をさして言う。 うんうんと言って差し出せば、マイは嬉しそうに受け取った。 そして、朝飯の用意されたテーブルにつく。
「サワがね、トーストにかけると美味しいって…」
と言いながら、トーストの端にちょこんと練乳を垂らす。
「それ甘すぎないの?ていうか…朝からそれは女の子としてどうなの」 「それ…ミネにも言われた…」
あぁ…確かにいいそうだな。 その後サワが『美味しければいいっ!』なんて言ってるのも想像がつく。 そうこう考えている間に、マイがトーストの端を口に運んだ。
「どう?美味しい?」 「美味しい…っ」
マイは凄く満足したようで、手に持った練乳を勢いよくトーストにかけた。
「おまえ…っ、それかけすぎ…」 「ほんとだ…手、ベタベタになっちゃった」
トーストの端から溢れた練乳がマイの指先を汚す。皿にトーストを一度戻したマイは、ぱくっと自分の指を口に運んだ。
「……………」
なんというか…この図は…朝の精神衛生上非常によろしくない。
「ん…、どしたのトーマ」
マーガリンを塗ろうとして止まったままの俺を不思議に思ったのか、マイは指を口元に近づけたまま尋ねた。
…あぁ、もう!!!!
無意識を意識する
(なにこれ拷問?) (つらすぎでしょ…)
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20120808
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