07







姫に気付かれたと思って急いで階段の影に隠れると、案の定俺を追ってきた姫がすぐ傍で立ち止まった。

「っはぁ…どっち…っ」

息が凄く上がっていて、見ているこちらの息まで苦しくなってしまいそうだった。階段の乗降のどちらにも俺の姿を確認できなくて、がくりと肩を落としているのが伺える。

「やっぱ…避けられてるのかな。当たり前だよね…逢わないって言われたんだし」

その言葉と共に溢れ出す涙に、俺は思わず目を背けた。軽率な俺の行動が姫を傷付けた。涙を見るのはあの日で最後にしたかったのに、またこうして泣かせてしまっている。やっぱり、俺がお前の傍にいるのは…



「ねぇ…忘れられないよ。好きだよ…っ、一樹が居なきゃダメなのっ」




嗚咽混じりに聴こえたその言葉。忘れられないって…俺が好きだって、確かに聴こえたそれに背けていた視線を姫に移す。身体を震わせて、溢れる涙を指で拭って…痛々しくてもう見てられなかった。


「一樹…」
「なんだよ」

影から飛び出て姫を後ろから抱きしめる。誕生日振りのその感触が懐かしくて、つい腕に力が入ってしまう。

ずっとこうしたかった…触れたかった。けれど、逢わないと約束した手前逢うことは出来なくて、姿を見かけるたびに息を潜めてその場をやり過ごす毎日。
星詠みは万能じゃない、本当にみたい未来はいつだって見えなくて漠然としている。
だから、姫が俺を思ってくれていて、受け入れてくれるんだって分かって…本当に嬉しかった。

「俺の事、忘れる事が出来なかった?…馬鹿だなぁ、忘れろ、って言っただろ?…本当に、俺で、いいのか?もう絶対、離さないぞ?」

腕の中で縦に振られた首。
手の中にある幸せが嬉しくて、うまく言葉を紡げない。







「やっと、お前に言うことができる…。愛している、ずっと傍に居てくれ…」

俺の頬に触れた手はあの日と同じなのに、泣きそうなくらい幸せな体温がそこにあった。






20120418
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