06
逢わない、と言われたあの日から、一樹に逢うことは無いまま一週間が過ぎた。そういえば彼は星詠み…という便利な能力を持っていたから、私が行くところなんてお見通して、避けられているのかもしれない。 何度か理由をつけて、生徒会室にも足を運んだけれど、一度も一樹に逢うことはなかった。
「まさか卒業まで逢わない、なんて事はないと思うけど…」
仮にも向こうは生徒会長なわけだし、式典ではその姿を拝めるはず。と同時に、遠巻きにしか一樹を見ることが出来ないのは悲しかった。
「気まぐれ…ね」
去り際に言われた一樹の言葉がぐるぐると頭を回る。 本当に気まぐれだったのだろうか。気まぐれで私を助けてくれて、気まぐれで抱きしめて、気まぐれで俺だけを見て欲しいって。
「だったら相当嫌な人だよ…」
そんな嫌な人に心底惚れてしまっているのが私なわけだけど、逢わないと言われて逢いに行くのもいかがなものか。しかも向こうは私を避けるように姿を見せないわけだし。 どうしたらいいのか分からなかった。逢わない間にも好きがどんどん募っていって、あの日抱きしめられた温もりはまだ消え去ってくれない。
『俺のことは綺麗に忘れて、元気に過ごせよ』
去り際に言われた言葉。 全然忘れられないよ…貴方の事で頭いっぱいだよ。
気が付いたら今日もまた放課後で、一日ぼんやりしてたなぁってため息を付きながら鞄に教科書を詰める。クラスメイトと話したのは覚えてるけど、どんな話をしたのかは覚えていなくて、いよいよ頭がおかしくなりそうだったとき、廊下に彼の姿を見た。
「っ一樹…!」
見間違うわけがない大好きな人。貴方の事しか考えられないほどに夢中な私が、貴方の後ろ姿を間違えるわけがない。 急いで鞄を掴んで後を追うべく教室を出た。
「っはぁ…どっち…っ」
階段まで来て、彼の姿を完全に見失ってしまった。せっかく話すチャンスだったのに…
「やっぱ…避けられてるのかな。当たり前だよね…逢わないって言われたんだし」
口をついて出た自分の言葉に涙が出た。
「ねぇ…忘れられないよ。好きだよ…っ、一樹が居なきゃダメなのっ」
貴方が居なきゃ息すらうまく出来ない…、楽しくなんて過ごせない。いままでみたいに『馬鹿だな』って言ってよ…。
「一樹…」 「なんだよ」
返ってくる筈のない返事にびっくりして振り返ろうとしたら、後ろからぎゅっと抱きしめられた。顔を見なくても分かる。この温かさ、ちょっと大人っぽいけど優しい匂い…間違いなく私が逢いたかった人。
「俺の事、忘れる事が出来なかった?…馬鹿だなぁ、忘れろ、って言っただろ?…本当に、俺で、いいのか?もう絶対、離さないぞ?」
掛けられた言葉は少し震えていた。
20120418
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