05
ダンッ!と部屋の壁に拳を打ち付ければ、壁に触れた部分からゆっくりと鈍痛が伝わってきた。
「…なに、してんだよ…っ」
触れたら溢れるって分かってたのに、抑えられなかった。叶うはずないと思った願いが、姫を手の中に収めたいというこの願いが叶ってしまって…そうしたら次は俺を知って欲しくなって、狡いって分かってるのに、失恋して弱った姫に近付いて、愛を囁いて惑わせた。
「俺なんかが、触れていい相手じゃないんだ」
目を閉じれば笑う姫の顔が浮かぶ。 そう、姫にはずっと笑っていて欲しい。俺の傍じゃなくていい。むしろ、俺の傍じゃお前は笑えない。俺は、俺には…大切な人を守るなんて出来ないんだ。 大切なモノは遠くから見守るに限る。月子だってそうだ。距離を埋めすぎてはいけない、もどかしいくらいがちょうどよくて、優しさに甘えてしまって抜け出せないのは嫌だ。
「なぁ、俺は…どこからやり直せばいいんだ?」
どこから始めれば、大切なモノを守れるんだ? 姫を想うようになってからずっと答えの出ない問いかけ。 きっと、どこから始めても俺自身の本質が変わることなんてなくて、愛することも愛される資格も、初めから俺には…
「でも、もし許されるなら…」
俺が気まぐれだよと言った時の姫の顔。その真意は分からなかったけれど、凄く傷ついたように見えた。思い過ごしならそれでいい、けれどその根底にあるものが俺と同じだったなら、愛していると言ってくれるなら…
「その時は、俺のすべてをお前に…」
二度と逢うことはない、そう告げたのは自分なのに、そうならなければいいのにと願う矛盾した気持ち。 だから、賭けをしよう。 もしももう一度が叶ったら、出来ないなんて言わずに傍でお前を守るよ。最も、姫がそれを望んでいてくれれば、の話だけど。
臆病なくせに、手の届くところに置いておきたくなる。そう思わずには居られないのは、お前だからだよ。
20120418
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