03
あの日から更に数日経った。あんな形で姫に真実を伝えてしまってよかったのかはわからないけれど、あのまま放っておいたら姫はまたあの男との関係を続けるだろう。それだけはあって欲しくなかった。
「汚いな、俺も」
好きな女に好きと伝えず、自分の欲で行動して。守ると言うのは建前で、本当は姫に触れるあいつが許せなかっただけかもしれない。 中途半端な気持ちで姫に触れて欲しくなかった。精一杯愛せない奴なんかに、姫を渡すのはごめんだ。
「一樹、いる…?」
控え目に開かれた扉。もう下校時間は過ぎていて、校内にいる生徒も疎らだろう時間に、生徒会室で書類に目を通している俺の元へ姫が訪ねてきた。まさか来るとは思っていなかったので動揺したけど、顔には出さない。見られてしまったが最後、隠した気持ちまで伝えてしまいそうだから。
「どうした?下校時間はもうとっくに…」 「ごめんっ!」
ばっ、と勢いよく頭を下げるからびっくりした。手に持っていた書類を置きながら、かけている眼鏡を外す。
「…何にかかる謝罪なのかわからないな」 「え…ぁ、えーっと…。叩いてごめん…かな」 「ほう…、確かになかなか堪えたな、あれは」 「ごめんなさい…」
素直に謝る姫が可愛くて、頬が少し緩むのを感じた。数日前に痛んだら頬にはもう熱もなくて。元々大したことの無いような腫れだったので、盛大に謝られるとこちらが申し訳なくなってしまいそうだ。
「気にするなよ、冗談だ」 「あの時全部話してくれたら良かったのに…」 「いきなりひっ叩くやつが、素直に話を聞くと思うか?」 「…ごもっともです」
返す言葉がないのか、しゅんとしてしまう姫。思わず触れたくなって、でも勿論そんなことは出来ないのだけど、せめて距離だけは詰めたくて、席を立って姫の傍に向かう。それをキョトンとした表情で姫が見ていたものだから、何か話題はないかと思案して振った。
「そういえば、それだけか?」 「へ?」 「ここに来た理由、それだけか?」 「あぁ、うん…」 「じゃあ、姫は今日がなんの日か知らないんだな」
姫の正面に立って姫を見れば、ごめん…わかんないな、という返答。まぁ世間的にはどうでもいい日だし、寧ろ知っていたら驚く。
「今日は誕生日なんだ、俺の」
4月19日、なんの変鉄もないその日が俺の誕生日。でも、今日こうして姫がここに来たことには、必ず意味があるのだと思う。いや、思いたい。そんな細やかな願いを望むくらいは許されてもいい日じゃないか?
「そうなの?!え…私なにも持ってない…」 「持ってたら、何かくれたのか?」 「そりゃ…私が渡せるものなら…」 「………」
ドクン、と胸が高鳴った。なにかあるかな?って小首を傾げる姫の手を引いて、腕の中に抱きしめる。
「か、一樹!?」 「…お前が、あいつのことを忘れられないのは分かっている。だけど、今日だけは…俺だけを見てくれ、俺を愛してくれ…、頼む……」
本音はいつだって醜い、そうだろ? 俺は愛されたいんだ…中途半端にしか守れないくせに、またこうして愛しい存在を手の中に収めておきたくなるんだ…
20120418
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