02







あの日、一樹は信じられない事を口にした。

『悪いな、こいつは俺のなんだ。気安く触れてくれるなよ?』

言葉の先には私の彼氏。正確には元、彼氏。二人に面識があったのかは知らないけど、一樹はぐいっと私を引き寄せて、私の元彼氏にそれを見せつけた。当然私は二股をかけていたと罵声を浴びせられて、大好きだった彼にフラれた。




「っ、最っ低!」

一樹を叩いた掌は凄く痛くて、痛かったけどフラれたショックでその時は全然痛みなんて感じなかった。

「友達、じゃなかったの…?」

掌を見つめながら、滑稽な言葉が宙を舞う。友達だと思っていたのは私だけで、少なくとも一樹はそうじゃなかったんだ。そう思ったらまた泣けた。
なにを聞いてもごめんしか言ってくれなくて、ついには彼の前から立ち去ってしまった私。寮の自室に戻ってぼんやりと考えても、一日にいろんな事が在りすぎて思考がついていかない。

「…なんなのよ、もう」

小さく呟いた言葉は静寂に消えた。











数日経ったある日、私は全てを知る事になる。
たまたま放課後街に出掛けたときの事だった。デパートをうろうろしていたら、元恋人の姿。同じ学校にいるのに、別れたら全く顔を見ることがなかったから、こんな街中で出逢えたのは奇跡だって思えた。
あの時はきちんと説明出来なかったけど、わけを話そう。そうしたら彼も分かってくれるはず。
フラれたショックで声を掛けられなかったのだってきっとわかってくれる…そう思い彼に近付いた。…近付こうとした。

「いくなっ」
「…っ!?」

急に後ろから腕を引かれたため、よろける身体。びっくりして振り返れば、今一番この場に居合わせて欲しくない人が居た。

「一樹…」
「いいから、そこで見てろ」

命令されるのは腑に落ちなかったけど、一樹の目が凄く真剣だったから、仕方なく柱の影から彼を覗いていたら、遠くから手を振ってくる女の子が見えた。その子が彼の近くまできて両手を顔の前で合わせて謝るポーズをすれば、それを彼が少し小突いて遅刻を責めてるみたいな素振りを見せて…、え…これ、なに?

「もう分かっただろ?二股掛けられてたのはお前だったんだよ」
「…うそ」
「今見たものが真実だ。遊ばれてたんだよ、姫は。って言っても、今あいつの隣にいるあの女も遊びなんだけどな」

一樹がいうには、彼はかなりの遊び人だったようで、私の他にも何人もの女の子と付き合っていたらしい。一樹からそんな話を聞きながら、目線の先には腕を組んで去っていく二人。
私は黙って見送る事しか出来なかった。ずっと大好きだった彼より、ここにいる一樹の言葉を信じてしまう自分が、なんだか悲しかった。






20120418
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