01
「っ、最っ低!」
ひっ叩かれた頬が痛い。来るだろう痛みは予知していたけど、その何倍も痛かった。多分、直接的な痛みは予測通りだったのだろうけど、精神的なものが結構堪えた。
「なんで、こんな事するの…っ」
瞳に涙を浮かべる姫。こんな顔を見たかったわけじゃないけど、こうしなければ姫はずっとこうして涙を浮かべ続けただろう。だから、これでいいんだ…
「ねぇ、何か言ってよ…一樹っ」
何を言えば良いのか教えてくれよ。どんな言葉だって、今の俺の気持ちを代弁してくれる物なんてないんだ。強いて言うなら…
「いずれ分かるから…ごめんな」 「なに、それ…」 「ごめん…」 「私、もう一樹が分かんないよ…、いやだ…こんな、」 「ごめん…」 「謝るなら話してよ…っ」
溢れた涙が頬を伝って零れる様を綺麗だなと思う。心がイカれたわけじゃないのに、こんな時にそう思えてしまう俺は、やはりどこかおかしいんだろうか。 嗚咽混じりに泣き出してしまった姫の肩を抱いてやることも出来ず、俺はただその場に立ち尽くすしかなかった。
『俺の事が嫌い?………ははっ、そんなの分かってるよ。お前をあいつから引き離したのは、この俺だからな。それでも…、お前を守りたかったんだ』
想いは、伝えない事が最もその想いを美しいまま留めておけるのだと思う。でも、俺のお前へのこの気持ちは、いつまで心に留めておけるのだろう。 留めて置けなくなる前に、姫から手を引かなければならない。
20120418
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