06
「お…」 「ぁ…お、おはよっ!」
玄関を開けると、丁度姫が彼女の部屋から出てきた。雷雨のあの日以来、姫には逢っていなかった。俺自身講義で忙しかったのもあるが、姫の方が俺を避けているような…そんな気がして。
「おはよう、デートか?」
見れば、いつものラフな格好と違って女の子らしい清楚な身なりをしていた。勿論ラフな格好でも可愛らしいのだけど、こうして他所行きの服装に身を包んだ姫も可愛らしい。
「ばか!違うよ、大学。講義なの」
部屋の鍵を閉めながら姫は鞄を見せた。意外だが、姫がこうして大学に向かうところを見るのは初めてだった。
「そっちこそデート?珍しく髪セットしてる」 「あのなぁ…俺は出掛けるときはちゃんとしてるぞ?」 「ごめんごめん、なんか逢う時っていつも寝癖がついてたり、寝起きみたいな感じだから」
くすくす笑いながら姫は鍵を鞄にしまった。俺も部屋の鍵を閉めてズボンに詰め込む。
「そういえば、大学近いのか?」 「うーん…そこそこ、って感じかな。ここより近くにもアパートあったんだけど…埋まっちゃってて」
駅に向かう道を二人で肩を並べて歩く。何度か夕食を食べにこうして歩いてはいるが、朝と夕方では見える景色も違った。
「なるほどな…、ってことは国立の、天文科が有名なあそこか」 「へぇ…詳しいね。その天文科なの、私。」 「天文…科…」
思わず立ち止まってしまった。だってまさかそんな偶然あるわけないって思ってたから。俺はどこまでも星と縁があるらしい。
「どしたの?」 「ぁ…いや、お前意外と頭よかったんだな」 「意外は余計ですー。ぁ…電車出ちゃうから先に行くね!」
俺の返答も聞かずに、姫は駅の改札へと消えていってしまった。
「なぁ、これって偶然なのか?」
誰も居ない道端で、俺は暫く動けずにいた。
20120326
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