05







「かず…っ」

姫の瞳は涙で濡れていて、その口は弱々しく俺の名を呼んだ。
俺は咄嗟に姫を抱きしめて、大丈夫だからと耳元で囁いた。

「何があったのか知らねぇけど、もう大丈夫だから…な?」
「ごめん…私っ」

ぎゅっと俺の服を掴む姫の手は震えていて、俺は姫を抱き締める力を強くした。
と、その時先程より大きい雷の音が部屋を支配する。

「っきゃぁぁぁ!」

その音に姫はビクリと身体を震わせて、耳を塞いだ。こいつ…もしかして…

「雷がダメなのか…?」
「、なによ…悪い?」

涙目で威嚇されても無意味な事に気が付かないのか、姫はキッと俺を睨んだ。その様子がおかしくて吹き出してしまえば、姫の顔は更に不機嫌なものに変わる。

「悪かったって…怒んなよ」
「…もうご飯作ってあげない」
「おい、だから謝って…」
「やだぁぁぁっ!」

その時、また大きな雷が近くに落ちて、姫は俺に抱きついてきた。
雷がダメだなんて、随分可愛らしいところがあるもんだ、と思いながら、俺は窓の外を見た。
雨は暫く止みそうにない。止むまでこうして姫の傍に居るのも悪くない…そう思わせてしまうような雨だった。






20120323
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