03







部屋に戻ってベッドに身体を預ける。
もう夏が近付いているのか、ベッドのひんやりとしたシーツが心地良い。

「彼氏…いんだろうなぁ」

何故そんなに彼氏の有無に拘るのか、その答えはもう自分の中では分かっていて、だからこそこの気持ちを認めたくなかった。もう不毛な恋は御免だ。
あんなに料理が美味くて笑顔が可愛い女に彼氏が居ないわけがない。月子のように恋愛に疎ければ特殊だけど。

「月子…か」

もう触れることの出来ない彼女。失恋、というにはあまりにも自分勝手な恋。傍で見守っていられればそれでいい…そう思っていた彼女も、今年から大学に進学するそうだ。月子の事は彼女の幼馴染み達に任せた。特に錫也はあいつの彼氏になったわけだし、もう俺がどうこう言える立場ではなくなってしまった。

「いい加減ケジメつけないとな…」

星月学園を卒業してから、ずっとこの気持ちが胸に疼いていていけない。もう忘れよう、あいつが幸せならそれでいいじゃないか…そう思えないのは守るものを得ることで、固持してきた強さを失ってしまうから。

では…姫への気持ちは?
強さを固持したいが為の口実?

姫に重ねる月子の影。ダメだと分かりながらも、俺の過去を知らない姫に甘える弱さ。

「俺は…何も変われてないんだな」

学園を卒業して2年目に差し掛かる初夏、変われないジレンマに悩む俺を嘲笑うかのように、夏の風をカーテンが運んできた。






20120323
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