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昨日一樹の部屋から出ていったことを後悔した。 止められたガス、電気も多分とまっているんじゃないだろうか。大家さんに聞けば、一樹は元々放浪癖があるらしく、こうして旅に出てしまうことはよくあったらしい。 むしろ、私が越してきてから一度も放浪していないのが不思議なほど…と言われてびっくりした。
「なんでこうなるかなぁ…」
笑えないすれ違い具合。昨日話していたときはそんな素振り見せなかったのに…と人気のない大学の食堂で一人愚痴る。いつ帰るかもわからないし、どこにいったかもわからない。もうどうしようもなかった。
「…あれ、プリンセスさん?」 「へ?ぁ…金久保先生」 「先生って…今は講義じゃないんだから、誉でいいよ」
声をかけられた相手…金久保誉さんは、大学に月1で茶道を教えに来ている講師さん。歳は私と同じらしいけど、物腰が優しくて素敵な大人の人ってイメージがある。
「じゃあ、誉さん」 「ふふ、どうしたのかな?なにか悩み事?」 「…顔に出てました?」 「うん、凄く難しい顔してた」
隣の席に腰をおろした誉さんは、私の食べかけていた昼食と私を交互に見て、全然食が進んでないね…と苦笑した。
「気になってる人が遠くに行ってしまって…」 「彼氏?」 「ぁ…いや!そんなんじゃないんですけど、たまに家でご飯を食べたり、お話したり…」 「…………」 「そういえば、誉さんも星月学園でしたよね?知ってます?不知火一樹って言うんですけど」
私が名前を出した瞬間、誉さんの表情が変わった。
20120501
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