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「なぁ、星月学園の知り合いって…夜久月子か?」
ご飯を温めて、一樹の部屋の新聞を片付けていたらそんなことを聞かれた。夜久月子…確か、今年入学してきた子で弓道部の子…だったかな。
「夜久さん?有名な子だけど、お話したことはないなぁ」
人伝に噂は聞くけれど、可愛くて優しい子っていうのがなんとなくの印象。 どうして?と聞けば、大したことじゃないんだ…とはぐらかす一樹。
「ちょっと月子とは色々あってな、娘みたいなやつなんだ」
その言葉で、全てが分かってしまった。 忘れられない人なんだな…って。確か夜久さんには付き合っている人がいるとか聞いたから、一樹は失恋したんだろうか。その夜久さんの彼氏も入学当初から、なかなか周りの目を集める人だった気がするのは記憶に新しい。
「なるほどね…さて、私は帰ろうかな」
これ以上詮索する気にもなれなくて、私は逃げるようにして部屋を出た。
一樹の部屋を出てから、一人で部屋に戻る気にもなれずに、少しだけ散歩してみた。 空には星が沢山散らばっていて、天体観測したいな、なんて思いながら物思いに耽る。 一樹と出逢って3ヵ月ほどになるだろうか。 一緒にご飯を食べたり他愛のない話をしたりしていたのに、私は一樹のことを何も知らなかった。ううん、今だって何も知らない。 それが凄くもどかしくて、もっと一樹のことを知りたいっつ気持ちばかりが強くなっていく。
「好きになっても、いいのかなぁ…」
彼女は多分、いない。 これは確信なんてないけど、自信はある。
「今なにしてるのかな」
慌てて部屋を出たことを少しだけ後悔した。
20120501
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