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雷の日から数日、一樹とは口をきけなかった。 大丈夫だから、って何度も私の頭を撫でてくれる手。いやらしい感じのしない優しい抱擁。 それに凄く安心して、忘れようとしていた恋心が再び甦ってきて。無意識に一樹を避けていた。
「お…」 「ぁ…、お、おはよっ」
隣に住んでいるのだから、いつか逢うのは当たり前で。少し家を早めに出ようとしたら一樹に出くわした。いつもとは違う、綺麗にセットされた髪に少しだけドキドキする心。 他愛のない話をして駅で別れてからも、一樹の顔が忘れられなかった。
夜、久しぶりに一樹の為にご飯を作ってみた。今も気持ちに整理がつかなくて、どう動いたらいいのか分からなかったけど、朝話ができて凄く幸せだったから。 呼び鈴を鳴らしても反応がなかったから少し待っていたら、疲れた顔をした一樹が帰ってきた。
「なにやってんだ…こんなとこで」 「ぁ、おかえりー」
なんかこういうの、新婚さんみたいでいいな…なんて少しだけ自惚れてみたりして。
「ご飯食べるんだと思って作っちゃったの。…もしかして 外で食べた?」 「いや、まだだ。良かったら上がっていくか?」
予想外の一樹の言葉。そういえば一樹の部屋って玄関越しにしか見たことない…と告げれば、じゃあ来いよと言われたので、慌てて自室の鍵を閉めにいった。 部屋に彼女の私物があったらどうしよう…なんて考えたけど、それならそれで諦めもつくし、 と自分に言い聞かせて、私は一樹の部屋に向かった。
20120501
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