何も出来ないのが悔しかった







一樹の様子がおかしい。
最初に彼の異変に気が付いたのは確か一昨日の放課後だった。私が忘れ物を取りに教室に戻ったとき。

「なにがあったんだろう…」

答えを知る主は傍には居なくて、居たとしても教えてくれないのだろうけど、その事にため息が出た。

一樹は何でも一人で抱え込んでしまう。それがどんなに大変な事でも、何でもないような顔をして。

「私はそんなに頼りにならないのかな…」

自分が何もかも出来るなんて思ってるわけじゃないけど、あんなに何かに追い詰められた一樹の傍に居ながら、何も出来ないのが悔しかった。
それもあってか、今日は朝から口を聞いていない。教室に居る間一樹の目が気になったけど、彼から何も言ってこなかったから私も気付かない振りをした。

「はぁ…気まずい…」

そして今、昼食をとるべく一人で屋上庭園を目指して廊下を歩いているわけで。ご飯を食べたら仲直りしようかな、とか、お昼ご飯誘えばよかったな、とか考えていたら、前方不注意で人にぶつかった。

「っ…わ、すいません!」
「いえ、俺も余所見してたんで…大丈夫ですか?」

こちらが悪いであろうに相手方が申し訳なさそうにしていて居たたまれなくて慌てて謝ると、怪我がなくて良かったです、と笑顔で返された。

「本当にごめんなさい、考え事をしていて…」
「俺は大丈夫です。でも廊下をぼんやり歩いてたら危険ですよ」
「はい…気を付けます…」

ネクタイの色からして後輩であろう彼に頭が上がらない。すると彼は私の手元を指した。

「もしかしてお昼まだですか?俺も…いや、厳密には俺たちも…なんですけど、良かったらお昼ご飯一緒に食べませんか?」
「え、あ…」

なんだかすっかり彼のペースで、どうしようかと渋っていたら彼の後ろから声が掛かった。

「錫也ー!早くいこうよー」
「昼休み終わっちまうぞ」
「わかった!すぐ行くからー!」

錫也と呼んだ女の子は月子ちゃんで、ということは彼は月子ちゃんがよく話してる幼馴染みだろうか。

「ってことで、どうです?プリンセス先輩」
「最初から知ってたのね?」
「すいません、あいつ…月子からよく話は聞いてます」
「私も、よく彼女から話は聞いてます。お料理が上手な錫也くん」

悪戯な口調でそう呟けば、彼…錫也くんは困ったような笑みを浮かべた。






(偶然ってなんですか?
それは確かに奇跡的に起こるものですか?)

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20120408




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