明確な理由なんてなかった
「一樹、遅かったね?遅刻ぎりぎり〜」
教室に入ると、姫が声を掛けてきた。結局あの後だらだらと準備をしていたら遅くなってしまった。おはよ、とだけ声を掛けて席につくと、姫は首を傾げて俺の隣にある姫の席に腰をおろした。
「なんか変じゃない?」 「そうか?お前の考えすぎだろ」 「うーん…そうかなぁ」
腑に落ちない表情の姫。いつもならそんな顔をさせないように言葉を選ぶのに、頭が働かない。それどころか視界すらなんだかぼやけて…
「ちょ…一樹っ!」
最後に見えたのは泣きそうな姫の顔だった。泣くなよ、姫に泣かれるとどうしたらいいかわからなくなるんだ…
「………」
視界が白い…差し込んだ光が眩しかったけど、ゆっくり慣らしていけば、見慣れない天井が見えた。
「起きた?」
そう尋ねるのは姫。姿は見てないけど声で分かる。だってほら、繋がれた手が彼女だって証明してる。
「なんで…」 「熱、結構高かったみたいだよ?教室でいきなり倒れたからびっくりしちゃった」
朝からの怠さは熱のせいだったのか。そういえば身体が妙に熱い気がする。 視界も慣れてきて、ここが保健室のベッドの上だと分かった頃、姫が俺を覗き込んだ。
「大丈夫?今日はもう帰った方が良いって星月先生が…っわ!」
覗き込んだ姫があまりに愛しくて、俺は思わず姫を抱きしめた。バランスを崩した姫は俺の身体の上に落ちてくる形になる。
「なに…本当にどうし…っ」 「姫…」
身体を起こして隙を与えずに姫に口付けた。明確な理由なんてなかった。姫が欲しい…身体がそう訴えたから。 唇に触れたら、熱のせいで崩れ去りそうだった理性が簡単に崩壊して、欲の赴くままに姫を求めた。優しくしてやらなければ、という気持ちに反して、ただ自分の欲をぶつける様にして動けば、駆け抜ける快感。 …初めて、歯止めが効かなくなった情事だった。
(今日のキミは 一度も笑わない)
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20120405
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