大切な人、全力で壊しにいきます








「廊下でキスなんて、大胆なんですね」

やはり見られていたのか、とため息を付いた。それもあまり見られたくない相手に。姫の言う通りここでは控えておくべきだった。

「用事があったんじゃないのか?東月が俺に話し掛けるなんて、そうあることじゃないだろ?」

不利な話題を払うべく、俺は東月に問うた。その言葉を受けて、東月はフッと笑みを漏らす。それがなんだか妙に不気味で、変な違和感を感じてしまう。

「彼女は…いや、彼女が、不知火先輩の大切な人になったんですよね?」
「どういう意味だ」
「深い意味なんてありません、ただ…」

核心が見えなくて気が落ち着かない。東月が気にしている対象は自分ではなく姫。それが妙に心をざわつかせる。そして、そのざわつきは彼の口をついて出た言葉によって、言い様のない警戒心に変わった。

「大切な人を守るのって、本当に大変なんだって教えて上げようと思って」
「っ!」

あぁ、彼は月子の話をしている。そして恐らく、幼き日に起きた出来事の事を、俺が犯した罪を、晒け出そうとしている。

「はっきり言え、遠回しに話されるのは不快だ」
「でははっきり言います。俺は貴方の事、月子をあんな風にした事、今でも許せません。なのに、貴方はまた生徒会に月子を入れて…あぁ反省なんてしてないんだって思いましたよ」
「、まて!それは誤解だ!」

月子を生徒会に入れたのは彼女を守るため。そのために会長にも就任したし、過去の罪を清算するために危険にすら身を投じることだってしてきた。しかしそれは東月には届かない。

「だから、知って貰おうと思って。大切なモノを守る難しさ、守れなかった時の絶望を」
「…なにを、する気だ」

東月の目は狂気染みている。尋常なそれでない事に身体が危険信号を出してきたが、ここから逃げ出すわけにもいかず彼の次の言葉を待った。

「今日はその宣戦布告です。身構えられるなんて、ラッキーでしょう?俺なんて本当に突然だったんで」

気が狂いそうになりました、と言いながら笑う東月。俺の言葉は届いていないのか、質問に答える素振りは見せなかった。宣戦布告、つまり姫が何らかの危機に晒されると言うこと…

「っ、俺はいくらでも罰を受ける!でも、あいつは…あいつは関係ないだろ?!」
「俺言いましたよね?不知火先輩に知って貰わないとって。俺、先輩に大切な人が出来るの、ずっと待ってたんです。だから…」





「先輩の大切な人、全力で壊しにいきます」







その顔は、今まで見た中で一番うっとりとした、惚悦の笑みだった。






(捜して捜して、やっと見つけた宝物
でもそれは、隠されておかなければならなかった)

--------------------------------

20120210




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -