それはきっと永劫に知る必要のないこと
生徒会の仕事を終えて、俺は姫と一緒に生徒会室を出た。姫は生徒会の役員じゃないけれど、付き合いだしてからは仕事が終わりそうな時間にひょっこりとやってきて、俺の仕事が終わるのを待っていた。 おかげで颯斗や翼、月子にも話す前に関係がバレてしまったが、やっと会長も自分の幸せを掴んだんですね、なんて言われたものだから、柄にもなく動揺してしまったのは記憶に新しい。
「わぁ、すっかり真っ暗!電気も所々しかついてないね」 「俺たちで最後だろ、全部消される前に帰ろうぜ」
姫は星詠科のクラスメイトだった。俺のように潜在的に力が備わっているのとは違い、後発的なもの。その多くを姫は語らないから、俺も多くは聞かない。時が来たら話すだろうし、話さなければそれはきっと永劫に知る必要のないことなのだと思う。
「ぁ、一樹。マフラー!巻いてあげる!」
急いでコートを羽織り鞄を持って出たので、マフラーは首にかけたままだった。姫がマフラーの両端を持って丁寧に巻き上げてくれる。
「悪いな」 「ううん、これでよし…っと」
マフラーを巻き終え、俺を見上げた姫と無意識に目があった。上目遣い、ご馳走さまです。心の中でそう呟きながら、鞄を持っていない方の手を頬に添え口づけようと距離を縮める。しかし唇は触れ合う事なく姫に止められた。
「ろ、廊下だよ?!」 「誰も見てねぇって、ほら」
制止を振り切り口付け。一度じゃ足りなくて、何度か唇を触れ合わせた。大好きな人に触れられる幸せ。唇を離せば、少し瞳を潤ませた姫。充てられたように鼓動が高まる。しかし、その鼓動は姫の言葉によって加速を止めた。
「…いけない。課題のノート教室だ…」 「、お前なぁ。ったく、ほら…取りに行くぞ」 「いいよ、ちょっとここで待ってて?」 「っ、おい!」
言うなり教室の方に駆け出す姫。引き留めようとした手が宙を切る。姫は頭で考えるより行動してしまうタイプのようで、時折今のように人の話を聞かずに突き進んでしまうところがある。自分にも同じようなところがあるから強くは言えないが、姫は女の子。しかも自分が一番大切にしている存在なのだから、心配をしてしまうのは当然のことだった。
「追いかけるか」
廊下は所々電気はついているがやはり暗い。ここで待っていても仕方がないので、教室に向かおうとしたところで呼び止められた。
「不知火会長」
どこかで聞いた声、でも思い出せない。声の主を見ようと振り返った俺は立ち尽くしてしまった。どうしてここに…いや、彼が自ら俺を尋ねて来たことに驚いた。もう言葉を交わすなんてないと思っていたから。
「東月…か?」
彼はあの、人の良さそうな笑顔でそこにいた。
(幸せに溺れていたの だから、迫り来る変化に 気がつく事が出来なかった)
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20120209
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