愛の言葉なんてひとつもなかった
「ねぇ、生産性の無い愛ってどう思う?」
舞花が制服のブラウスのボタンを留めながら、ぽつりとそう吐いた。同じように、ネクタイを締めていた俺の手がピタリと止まる。
「…お前なぁ、そういう事言うなよ」 「ごめんごめん。で、どう思う?」
全く謝る気の無い謝罪にため息が1つ。ベッドの上に無造作に投げられた避妊具の入っていた袋を掴みながら、たった今の今まで生産性の無い愛の営みをした舞花を横目に見る。 舞花とそういう関係になってから随分経つけれど、関係を持ち始めた頃から考えの掴めない女だった。
「なんでいきなりそんな質問をするんだ」 「ん〜、考えてたら分からなくなっちゃって」 「俺は常日頃舞花の事はそんな感じなんだが」 「あらあら…」
けらけらと笑うから気が抜けてしまう。そこは笑うところじゃないし、小馬鹿にされてるのにも気付いて貰えなくて調子を狂わされるのもいつもの事。 俺がどう反応しようか迷っていたら、舞花はあっさりと話を変えてしまった。
「キスは好きな人とするものらしいの」 「まぁ、よく言うな」 「でも一樹はするよね」 「………」 「それって私の事好きって事?」
聞かれて困った。なんて誘導尋問だろう…っていうか最初の生産性の無い愛の話はどうしたんだ。 色々な考えが頭を回って、心臓の鼓動が僅かに加速していく事に驚く。俺の本心なんて、もう死んでると思ってた。
「自意識過剰だな」 「エッチの時ほど本音が漏れるものらしいよ?」 「………はぁ」
本当に舞花には敵わない。思い返せば、初めて身体を合わせた時もこいつはそうだった。
『男って、愛が無くても魅力的な女なら抱けるらしいの』
『ね、私は不知火くんにとって魅力的かな?』
「狡いな、舞花は」 「酷いなぁ、健気な片想いじゃないですか」 「俺じゃなかったら、ただの痴女だぞ」 「それもそうかも」
でも、分かってくれたじゃない? 微笑みながら呟く舞花の顔に、今まで見たどの瞬間よりも美しさを感じた。そうだ、ずっとこの時を待っていた気がする。
「じゃあ、最初の質問ね?生産性の無い愛ってどう思う?」
訊ねる舞花の頬に手を添えて、俺はそっとその唇にキスをした。
愛の言葉なんてひとつもなかった
(今日で終わらせる) (そして、今日から始めるんだ) -----------------------------------------
20120410
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