二度と隣には立てないというのに







「誉ちゃん、これ貸してくれない?」

選択科目の時に、教室で話す俺と誉の元に舞花が来た。

「それって桜士郎に」
「うん、桜士郎が持ってた。私も読みたいなって思って」

本らしきものを指しながら話している舞花は俺の方を見ない。
それはあの日、舞花に別れを告げられてからずっと。

『一樹ってさ、私のこと見てる?』

最後の言葉は確かこんな感じだったと思う。
衝撃的すぎて、言葉よりも別れた事実だけが心に深く刻まれた。

『私のこと見てる?』……見てないわけがないのに。

単純なやりとりでも表情をコロコロ変える舞花が好きだった。
初めてキスした日、二人でこっそり授業を抜け出した日、髪に指を絡ませた感触、全部記憶してる。



「じゃあ借りていくね、ありがとう!」

教室を出ていく舞花に、声はかけられなかった。
隣で誉がなにか言いたそうだったけど、ちょうど授業を開始するチャイムが鳴ってタイミングを逃したようだ。


「……………」

愛が伝わらないのが苦しかったから舞花と離れたら、もっと苦しくなった。
カッコ悪くても、行くなって止めればよかったのに、自分の舞花を想う気持ちを否定された気がして、繋ぎ止めることができなかった。






二度と隣には立てないというのに

(君への想いは募る)
(あの日からずっと、止まったままの時間)

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20121005




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