どうか僕に、諦めさせてください







線香花火をしよう!と舞花が花火をもって押し掛けてきたのは、秋風の吹く夕方のことだった。

「どう考えても花火するような気温じゃないよな」
「そうかな。涼しい中でする花火もなかなかじゃない?」

俺の隣で、寒いだろうにそんな素振りも見せずに線香花火をもつ舞花。
なんでこんな季節に…と尋ねたら、夏にやった文が余っていたかららしい。

「ほんとはさ、やらないつもりだったんだよね」

最後の一つを手に持って、先に火がついていた俺の花火の先に近付け火を奪う。
別に願掛けをしていたわけじゃないし、このまま落ちてしまっても問題なかったのが家、舞花に火を分け与えた今もチリチリと火花を散らす線香花火を見て、落ちてしまわなくてよかったと少しだけ思った。

「でも部屋においとくのもさ、なんかね」

ところどころ言葉を濁しながら話す舞花に適当に相槌をうちながら、俺は漸くこの季節外れの花火の理由に気がついた。

「………なぁ」
「ん?」
「………やっぱいいや」
「なにそれ」

だって今言うのはずるいだろ。
舞花は俺を頼ってこうして花火をしてて、本当に花火をしたかった相手を誘えてなくて。
つまり自分は恋愛対象ではないと言うことで。



「あ、落ちちゃった」

舞花の声で我に返ると、舞花の線香花火から火種が落ちて地面でじんわりと熱を放っていた。






どうか僕に、諦めさせてください

(落ちてくれない線香花火)
(願掛けすれば少しは変わった?)

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20120930







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