誰にも知られずにこの恋が終わっていく
「龍ちゃんっ」
声を聞けば振り向かずともわかる舞花の声。何度その声でこうして名を呼んで貰っただろう。
「どうした?」 「ぁ、今ちょっと考えてから返事したでしょ?」 「む、どうしてそう思う?」 「龍ちゃんはね、咄嗟に声かけられたら『む、』って言うんだよ、今みたいに」
クスクス笑って舞花はそう指摘した。 知らなかった、まさかそんな癖があったなんて。自分でも気が付かなかった事に舞花が気付いていて、それがなんだかくすぐったいような感覚。
「…それは知らなかったな」 「だと思った。ぁ、誉さんが来たから私もういくね!」
金久保先輩の姿を見つけた舞花は、ひらりと手を振って立ち去ってしまった。 そう、彼女は金久保先輩のもの。 間違いなく相思相愛で、割り込む隙なんて微塵もない。
「後悔先に立たず、か」
舞花は俺を気にかけていたのは何となく知っていた。けれど、思い過ごしだとか恥ずかしいだとかで、ずっと気持ちから逃げてきた。そうこうしているうちに、金久保先輩に相談していた舞花が先輩に惹かれた。その結果がこれだ。
「手に入らないと、欲しくなるのか?俺は」
舞花が俺の癖を見て笑う。俺の癖に気付いてくれる。それはどんなに幸せか。 気付いたのは今更になってからだった。
誰にも知られずにこの恋が終わっていく
(求め合うタイミングが合わないと) (恋は成功しないんだ)
------------------------------------
20120425
|