触れられなかったキスの味を、僕は生涯忘れない
「ぁ、錫也それ…っ!」 「ん?」
先程自販機で買ったペットボトル飲料水を指しながら寄ってくる舞花。特に意識せずに選んだそれを見て、舞花は嬉しそうに口を開いた。
「限定のやつだよね、ピーチ味!」
限定の、という単語に思わずくすりとしてしまった。舞花は本当にこの単語に弱い。俺も特売とかに弱いから、もしかしたら俺たちは結構似ているのかもしれない。
「良かったら飲むか?」 「いいの?頂きます!」
俺の手からペットボトルを受け取って口に運ぶ舞花。ぁ、これって間接キスだなって思ったのは内緒にしておく。だってなんかそういう事考えてるって思われたくないし。
「ぉ、舞花!何飲んでるんだ?」
ふらりと後ろから表れた哉太が、舞花の持っていたペットボトルをひょいと取り上げた。もーっと怒りながら、返して!という舞花が可愛くて、つい二人を止めるのを忘れてしまう。
「へー、ピーチね。いただき!」 「ぁ!ちょっとそれ錫也のなの!」 「なら尚更いいだろ」
すると舞花の飲みかけのペットボトルの口が哉太の唇に触れて…
「ごちそーさんっ!美味かったな、それ」
にっこりと微笑む哉太。空になったペットボトル。明日から暫く哉太にご飯を分けてあげるのは止めよう。 それはよかったと微笑む顔には出さずに、俺は心のなかでそう決意した。
触れられなかったキスの味を、僕は生涯忘れない
(この恨みは大きいからな) --------------------------------
20120414
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