夢中になんてなってあげない







必然、そういえば簡単だけど
此処で逢えたのは奇跡だ
僕はそう思うよ






翼が部屋であまりにも熱心に発明に取り組んで居たから、何か甘いものを…と購買部に足を運んだまでは良かったのだが、買うものを一通りカゴに詰めたところで財布を忘れた事に気が付いた。

「…取りに帰るの、面倒だな」

僕は迷わず携帯から姫先輩の番号を選択して電話を掛けた。寮に居たら諦めよう、そう思いながら携帯に耳を当てていたら、すぐ近くで着信音が鳴り響いた。
姿を見なくても分かる…この着信音は…

『梓くん?どうしたの?』

振り向けば受話器から聞こえた声と、全く同じ口の動きをする姫先輩の姿。思わず笑ってしまったら、なに?と少し不機嫌な声が帰ってくる。

「先輩!こっちです」
「っ梓くん!どうしてここに…」

終話ボタンを押しながら姫先輩が僕に近付いてくる。姫先輩も買い物だろうか、手にはまだ何も入っていないカゴを従えていた。

「翼に差し入れを持っていってやろうと思って。先輩も何か買い物ですか?」
「私は勉強の息抜きに来たの、って…つい癖でカゴ持ってる」

自分の腕にしっかりとカゴの存在を確認して、姫先輩はため息をついた。こういうところ、先輩らしくて凄く好きだ。

「梓くん、もう精算?」
「まぁ、そうなんですけど。財布を部屋に忘れてきたんです」
「珍しいね、梓くんにしては」
「…僕もそう思います」

普段ならこんなうっかりしたことはしないのに、寧ろ僕が姫先輩に貸す側なのに。
姫先輩は財布を取り出し、僕に差し出してくれた。

「さっきの電話はこれだったのね?」
「ぁ、バレちゃいました?でも姫先輩に逢いたかったのも本当ですよ」

本音を伝えれば、相変わらずだなぁ…なんて苦笑する姫先輩。逢いたかったのは本当だ。学年が違う僕が姫先輩に逢えるなんて早々無いのだから。
姫先輩にとっては僕はただの後輩なのかもしれない。でも僕は…

「ほら、会計いっておいで?」

財布を受け取ったまま動かない僕を先輩が促す。きっと僕が抱き始めているこの感情に、姫先輩が気が付くのはもっと後の事なのだろう。もどかしくもあるけれど、こうして無償で傍に居られる関係は心地良い。
レジに向かいながら、僕は姫先輩にこう告げた。


「頂いたものは何倍にもして返しますからね」


その言葉を聞いて、貸すだけだからね!と返ってきた答えに、僕は思わず吹き出した。









(僕が貴方を夢中にさせます
だから早く気付いて下さい)

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相互お礼で花香様に〜!
梓くんですっ!が、私が書くと梓くんはひねくれものに…
梓くんが忘れ物なんてしませんよね…ね。

良かったら貰って下さい〜っ!
これからもよろしくお願いします!

20120316





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