君が笑うと俺も嬉しい
君が笑うと俺も嬉しい
「こいつに初めて会ったときの衝撃といったら、まるで雷に撃たれたかのようで――」 「そう。じゃあ捨てていいよね」
感情込めず冷たい目で言うと、彼女は手に持っていたものをゴミ袋にいれた。
「大事にしてたって言ったじゃないか!」 「その割には中身のDVDは入ってないし、パッケージには埃がかぶっていたけど?」 容赦のない言葉に何も言い返せない。 「今日は休みの日だから」と、俺が寝ているにもかかわらず部屋に入ってきて掃除を始めた彼女。 俺もその時はまだ疑問に思っていなかった。それに仕事で忙しく、掃除もろくにしていない部屋を綺麗にしてくれるなら、それ以上に助かることはないと思っていたのだが。 彼女がある物を発見してからはずっとこのありさまだ。
「次は本棚の奥かな」 「いやいやいや……そこだけは駄目だ。絶対に駄目だ」 あの奥には俺のお宝が眠っている。それも一つじゃない。 いくらお互い愛し合っていても、あれを見られては百年の恋も一瞬にして冷めかねない。 「いいから早く退いて。ゴミは捨てなきゃだよ。私今掃除してるんだから」 さすがに結婚して何年も経つと、学生の頃のような遠慮なんてものは無くなるんだな。 なんてしみじみ思っていると、いつの間にか彼女は本をどかし始めた。 「わーーーー駄目ったら駄目だ!」 「一樹さんのケチ。どケチ」 本棚を漁る彼女の前に立ち背で隠す。 自然と上目使いになった彼女が、おねだりするかのように「どいて」とせがむ。破壊力はバツグンだった。 (くっ……この可愛さに屈して素直に従ってしまえば、きっと) 嫌われるか、引かれるかどちらかだ。いやその二択ならまだいい。愛想をつかれて俺の下から去ってしまったら……? 考えたくもない。なんとしても退くまいと、必死に言い訳を探す。 「いい男には、ひっ秘密の一つや二つ……あ、あるものだぜ?」 焦りで上手く口が回らない俺を不思議に見ると、彼女は少し考えてから言った。 「お互い隠し事はなしって決めたでしょう?」 「そっ、それは……」 「ねっ」と首をかしげていう彼女。今の俺の目には小悪魔を通り越して悪魔にしか見えない。 どうする、俺。 もしかすると人生初の大ピンチではないのか。 冷や汗が背中を伝う。追いつめられた俺にはもはや、この場所を退くしか道はなかった。 「わ…………わかりました」
ぐったりとベッドに突っ伏す俺と、隣で次々にゴミ袋を埋めていく彼女。 「うう……」 「まだ落ち込んでるの?別に嫌いになんてならないって言ったじゃない」 そうは言っても俺の心は大分すり減っている。 「見ないものをとっておいても仕方ないと思うんだけど」 「確かにそうだが」滲む涙を抑えぐっと唇をかみしめる。 お宝、それはお気に入りだったもの。確かにもう見ていないから埃をかぶっていたことだろう。だがそれだけ気に入ってたのも事実。 「それに」 残りひとつを袋に投げ入れ、キュッと口を結ぶ。 「私っていう人がいるのに、まだそういうの見るの?」 「姫……」 頬を膨らませながらキッと俺を睨む顔は、どこか寂しそうだった。 許してもらう気はない。だが、自然と腕は彼女を抱きしめていた。 「ごめん」 一つは、一応そういうものを隠し持っていたことに対して。 もう一つは、大切な人を傷つけてしまったことに対して。 すると彼女は腕の中で小さく「私こそごめんね」 と、優しい声で返事をした。
「なあ、姫」 「何?」 「掃除してくれてありがとな」 俺の彼女は少しだけやきもち妬きで、少しだけ意地悪で。 今目の前にある笑顔が、愛おしくてたまらなかった。
----------------------------- 大好きな小夜ちゃんから頂きました〜っ! ネタもなにもかもがツボ過ぎて、土下座する勢いですありがとうございます…! 結婚ネタは自分で書くのが恥ずかしくて…あぁ一樹さん…っ! 本当にありがとうございましたっ!
20120922
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