※狛カム要素あり
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へんに肌寒い夜のことだ。星たちが敷き詰められた夜の真下、ボクは彼の瞳に誇り高さと美しさを見た。そしてそれと同時に、虚しさと儚ささえをも見出した。あの日の彼の瞳は、コンセプトの定まらないプラネタリウム。まさにそういう風だったと思う。彼のそんなぐちゃぐちゃに混じり合った感情を乗せた瞳を見たのはそのときが初めてであり、たぶんその瞳を見たのはこの島でボクひとりだけだろう。べつに特別な根拠なんてものはないけれど、そこには確信めいた祈りのようなものがあった。ボクはきれいなものが好きだったし、ゴミクズはゴミクズなりに、独り占めしたいという感情を起伏させることだってあるのだ。そういうわけで、ボクはあの日から彼のあの瞳がずっと忘れられないでいる。寝ても覚めても、もうずっとだ。

けれどひとつ疑問があった。あの夜の彼の瞳を愛せば愛すだけ、それは洪水のようにボクの脳を浸す。普段の彼の瞳だって確かに輝かしい。けれど、あの息をのむような美しさには到底及びやしないのだ。かの運命の夜以来、ボクは彼の瞳を特別美しいと思ったことは一度もない。彼は特筆することもない普通の人間だった。いや、才能がまだ不明とはいえ超高校級の才能の持ち主であるのだから普通だなんて言うのはおこがましいにも程があるけれど、それにしたってあの夜の輝きにはあまりにも届かない。遠い日の夜、あの一瞬の光。あれはいったいなんだったのか。ボクの網膜が霞み見た愚かしい幻覚だとでもいうのだろうか?真実はわからない。でも願わくば、もう一度あの輝きに会いたいと。そう思わずにはいられなかった。


「ツマラナイ話ですね」
「あは、確かにそうだね!ごめんね、こんなゴミクズの話に付き合わせちゃって。やっとキミに会えて嬉しかったからってつい喋りすぎちゃったみたいだね」
「話の内容もですが、あなたの希望への予定調和で連続性しか持たない異常執着が一番ツマラナイ」
「手厳しいね、カムクラクン」

けっきょくあれから一度も彼のあの瞳に会えないまま死を選ぶことになったボクは、途切れかけた意識の中こうしてようやく彼に会うことができた。本来ならボクの意識なんてもうボク自身からもこの世界からも消失していなくてはならないはずなのだが、いわゆる奇跡というやつか、バグというやつか。そう、言ってしまえばボクの恋まがいの感情はバグによって創り出されたものと言っても過言ではなかったのだ。ボクを彼の瞳を想うボクたらしめた運命の夜、あのときに見た彼は日向創ではなく、カムクライズルだった。彼に会ってボクはようやくそれに気がついた。おそらくあの夜、この世界はすこし狂っていたのだろう。保たれていた調和が崩れ、ほんの一瞬だけここにいるはずのないカムクライズルが現れた。そしてそれをボクは偶然目にしたという、それだけの話だ。カムクライズルの才能は超高校級の希望なのだから、そりゃあボクが彼に惹かれないはずがない。けっきょく、希望だ。ボクはバグによって希望に恋をした。日向創にではなく、カムクライズルという希望に強く惹かれたのだ。…それを少し残念だと思うのは、気のせいだということにしておこう。だんだんと意識にもやがかかり始める。本当の死、本質的な覚醒が近いようだ。去りゆく光に目を細めながら、自らの才能に憎悪めいた感謝を贈った。ああ、彼はそろそろボクを恨んでいる頃だろう。

「キミみたいな希望に会えるボクって、やっぱりとんでもなく幸運だね!」
「ツマラナイ自己評価ですね」
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