ディオを抱く夢を見た。性欲の雨が水面を打つようにふたりの肌を伝い、普段からは考えられないくらい顔をぐしゃぐしゃに歪めたディオが眉根に皺を寄せてぼくを下から睨んでいた。瞳からは涙、口からは涎。鼻水さえ出ていたかもしれない。あの花のように取り澄ましたディオの顔は、お世辞にもきれいだとは言えない表情になっていた。ぼくはただ行為に明け暮れながらディオの醜態を見逃すまいとじっと彼を見ていて、しかし背中にくい込むほど深く立てられた爪の痛みに申し訳なさを募らせていた。そして最後には悲鳴のような嬌声をあげ続ける彼にごめん、すべてぼくが悪い、と詫びながら彼の中に射精したのだ。ひどく生々しく、熱気の籠もった夢だった。


「ジョジョ」

はっと我に返る。波のように満ち引きをする吐き気に耐えながら、声がしたほうに反射的に顔を向けた。いま一番聞くべきではなかったその声は、ドアの向こう側から響いている。額に粒を成した冷や汗を腕で拭ってから、なんだい、と返事をした。

「なんだい、じゃあないぜ、君。いい加減起きたらどうだい。君が来ないといつまで経っても朝食が食べられない」
「ああ、ごめん。すぐに行くよ」
「本当に早く来てくれよ。時間だってけっこうギリギリなんだ」

もう一度ごめんと言おうとしたところで扉の向こうからディオの靴音が聞こえた。それはどんどん遠くなって、やがて彼方に消えてしまう。もう行ってしまったらしい。ぼくはひどく安心し、全身の力を抜いた。股の間のものからどろりとした罪悪の象徴が垂れているのを感じる。なんだかもうすべてに責められたい気分だ。なんと言ったってぼくは今、義兄弟を乱暴に抱く夢から醒めたあとに、夢精という現象に直面しているのである。最悪、いや、最低じゃあないか。まず、夢の中とはいえぼくは同性愛という犯罪を犯したことになる。もしぼくがディオへの好意の延長としてこんな夢を見たのであれば、夢の中で犯した罪は今も際限なく続いているということになってしまう!そんなこと、あんまりにも倫理観が欠如しすぎている。認めがたい。ぼくの中にそんな感情が眠っているかもしれないだなんて。けれどぼくはこうして実際に同性の義兄弟を夢の中でめちゃくちゃに犯したのだ。醜く歪む彼の顔の細部までをも見逃すまいと必死になっていたのだ。たとえ夢であったとしても、あそこまでの激情は普段から抱えているものでなければ沸き起こらないのではないだろうか。つまりぼくは常日頃からディオを抱きたいと渇望していて、今回はそれが表層に顔を出しただけなのだと、そうかもしれないのだと。思考したぼくはとてつもなく恐怖した。股に伝う自らの欲望が不愉快で不可解な感触と現実に変わってゆく。なにもかもがおかしくなりそうだ。ぼくは迫り来る絶望の気配を一心に肌で受け止めながら、ただ頭を抱えて夢で見た彼の涙を記憶から消し去ることにいやに躍起になっていた。もうすぐ2度目の怒声がやってくるかもしれない。お願いだからもう来ないでくれ。


魔女あらわる
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