和さんにとってオレは彼の中での特別に分類されているのだという確信があった。バッテリーという関係の付き合いを続けて、どんなにつらい練習も肩を並べて乗り越えてきた。そうやっていつも傍にいたオレという存在に対して、和さんは特別な思い入れを持っているに違いないのだと。勘違いや錯覚ではない、そんな霧のような危ういものでオレたちのあり方を捉えるには、ふたりはあまりに明確な形を為しすぎている。オレとあのひとは隣にいるべきなのであって、あのひとの隣にオレ以外の奴が割って入ることなどあってはならないのだ。これは覆ることのない決定事項であり、永続する完成形の愛だ。

上記の思考を自分の通常のそれに据えていたオレにとって、いま手元に収めてある一枚の手紙はまるで地球に衝突した巨大隕石のように感じられた。内容を一読して、嘔吐感が押し寄せてくる。視界が白んで脂汗も吹き出し始めた。2年ほど音沙汰のなかった和さんからの久しぶりの連絡。オレに宛てての、オレに向けてのあのひとからの知らせ。結婚の2文字さえそこに存在しなければ、今頃オレは喜びで目に涙を浮かべていただろう。今は別の意味で泣きそうだ。手紙には和さんがオレの知らない女と腕を組んで微笑んでいる写真が同封されていた。喉の奥で肥大するしこりのような違和感。あのひとがオレではない誰かを隣に置いて、オレではない誰かの夫になり父になる。こんなことが信じられるだろうか。信じられるはずがない。和さんはオレのバッテリーで、オレという人生のすぐ近くになければならない世界だろう?オレたちは頑丈な鎖みたいなもので確かに繋がっていて、だから2年間連絡が絶えていたって信じていることができたのに、その結果がこれか。オレとあのひとの関係とはいったいなんなんだろう、あのひとにとってオレはどれくらいの大きさで彼の胸の内に存在していたんだろう。あああ。和さんの横でそうするのが当たり前であるかのように女は笑っている。気持ち悪いと思った。あのひとを幸せにできるという確固たる自信をその顔に貼り付けたまま、あのひとの隣で微笑んでいる女が。ああ最高に気持ち悪い。おまえのいる当たり前は、オレがいるはずだった当たり前だ。オレが行けなかった場所なんだよ。こんな女に幸せにされる気満々の和さんが今だけ憎らしくて仕方がなかった。あんたはこれから毎日この女のメシを食って、この女と一緒に寝て、この女と新しい朝を迎えるんですね。オレじゃなくてこの女と、オレじゃなくて、オレじゃなくて!ああ神様!
あのひとの唯一無二の親友になりたかった。あのひとのただひとりだけの恋人になりたかった。あのひとの人生に寄り添うことのできる家族になりたかった。あのひとの、あのひとの当たり前になりたかった。ねえ和さん、ほんとはオレ、どっかでずっとわかってたんですよ。オレは和さんっていうひとりを他のやつらとは別に見ていたけど、和さんはオレをみんなの中のひとりとして見ていて、オレを別個としては認識していなかったこと。それでもずっと好きだったんですよ、ずっと好きで居続けただけなんですよ。ねえ笑ってよ。オレは今も確かにあんたを愛していて、この先も永続的にひとりであんたを愛していくんですよ。胸中での叫びの向こうで脳裏はあのひとの笑顔を形どって、しかしすぐにぱちんと弾けるようにして消える。不思議と涙は最後まで零れ落ちることはなかった。手紙と写真は破ってゴミ箱に捨てた。
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